2025年05月16日

鎖された声

エミコ・ジーン 著
北綾子 訳 「THE RETURN OF ELLIE BLASK」

<あらすじ>
ワシントン州の海岸沿いの町コールドウェル。この町に隣接する森のハイキングコースで、2年前に失踪した少女エリー・ブラックが発見された。
当時の捜査担当警察官チェルシーが事情聴取するが、エリーは捜査協力を拒む。彼女は何かを怖れ、意図的に何かを隠していた。
捜査が行き詰まる中、エリーが発見されたとき着ていたスウェットシャツは、5年前に行方不明になった少女ガブリエル・バーロウのものと判明する。
しかしガブリエルは、1年半前に遺体で発見されていた。絞殺だったが、事件は迷宮入りしていた。
やがて、スウェットシャツに付着していた血痕は、DNA鑑定の結果、今も行方不明になっている少女ウィラ・アダムズのものと判明する。
チェルシーは連続少女誘拐事件を解決すべく、あらゆる手がかりを必死で追うが・・・

<感想>
14歳のとき15歳の姉リディアを失った主人公の後悔と使命感、森と犬と怒りを抱いた犯人に囚われている少女たちの恐怖と緊張感、拉致被害者家族の不安などを丁寧に描き、一気に読ませる。そして真相は衝撃的だった。
チェルシーの刑事としての原点、エリーが拉致された経緯、誘拐犯の策略と生還したエリーの目的などが相まって、面白いサスペンス小説だと思う。
しかし、リディアの事件と連続少女誘拐事件の犯行動機に説得力がない。犯人の意外性もない。上手く辻褄合わせしているが、読後感はあまり良くないな。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:42| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年04月30日

北緯43度のコールドケース

第67回江戸川乱歩賞
〈北緯43度のコールドケース〉シリーズ @
伏尾美紀 著
装画 草野碧

<あらすじ>
2018年1月4日、北海道札幌市。中南署管内にある自動車修理工場の古い倉庫で、少女の遺体が発見された。遺体は市松人形を思わせ、化粧をしていた。DNA鑑定の結果、5年前の誘拐被害女児・島崎陽菜(当時3歳)だった。
誘拐事件は身代金を受け取りに来た犯人の渡瀬勝が電車に撥ねられて死亡、陽菜を見つけられないまま、未解決となっていた。
島崎陽菜の遺体発見を受けて、中南署に捜査本部が設置された。そして渡瀬勝を逃がしてしまった警察官・藤井俊太郎が、勤務先の交番内で拳銃自殺した。沢村依理子警部補は、指示に従わず単独で動き、捜査本部を外された。
3か月後、事件はまたしても未解決に終わり、捜査本部が解散した。沢村は創成署の生活安全課防犯係に移動となった。
1年半後、沢村は天狗岳事件と呼ばれる少女売春・リンチ殺人事件に取り組んでいた。13年前の江別女子中学生リンチ殺人事件と酷似していると睨み、この両方に登場する工藤文江の罪を立証すべく、捜査を開始する。
そうした中、島崎陽菜誘拐事件の捜査資料が流出し、沢村は漏洩犯の疑いをかけられてしまう。その後、沢村のもとに捜査資料のコピーが届いた・・・

<感想>
主人公の沢村依理子は、30歳で警察官になった博士崩れの独身女性38歳。前半はあまり活躍の場がない。本筋と関係のないエピソードが多く、ストーリー展開もぎこちなくて読み辛いな。
ところが中盤になると足踏み状態から抜け出す。沢村の仮説、誘拐事件とリンチ殺人事件の真相、漏洩犯の正体とその動機など、面白く読ませる。登場人物たちの描写も良かった。シリーズ2作目『数学の女王』も読んでみたいな。
満足度 3.gif


posted by ももた at 08:53| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年04月22日

笑う森

荻原浩 著
装画 都築まゆ美

<あらすじ>
ネットで小樹海と呼ばれ、ここ数年自殺の名所になりつつある神森。
そのトレッキングコースに来ていた5歳のASD(自閉症スペクトラム障害)男児・真人が行方不明になった。
同じ頃、恋人の死体を捨てに来たデパートの派遣社員・美那、ユーチューバーの拓馬、上納金を持ち逃げした暴力団の構成員・谷島、中学校の国語教師・理実も森に迷い込んでいた。
7日後、無事に保護された真人は、「クマさんが助けてくれた」と答えた。食べず嫌いが治り、聞き分けも良くなった。
しかし、真人が7日間何をしていたのか判らない。そして真人の母でシングルマザーの岬は、ネットで誹謗中傷のバッシングに晒されていた。
そこで真人の叔父・冬也が調査に乗り出す。真人の足跡を仮定して森に入り、男性の遺体を発見する。その後、神森でソロキャンプをしている拓馬に会いに行き、SNSで誹謗中傷を繰り返す悪質な投稿者2人の特定を頼む。
真人の空白の7日間には4人の男女が関わっていた・・・

<感想>
真人の空白の7日間を解き明かしていくと、新たな展開になり、関係者も増えていき、読者を引き付ける。そこには大人たちのエゴも見え隠れするが、真人の冒険、4人の男女と真人の賑やかな交流、ヤクザ同士の揉め事、悪質な投稿者の正体などが相まって、とても愉しい小説だと思う。
しかし、真人と関わった5番目の存在は少し無理があると思うな。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:45| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。