2025年02月07日

ささやきの島

フランシス・ハーディング 著
児玉敦子 訳 「ISLAND of WHISPERS」
カバーイラスト・挿絵 エミリー・グラケッド

<あらすじ>
レイフとマイロ兄弟の父は、死者の魂を船に乗せて〈壊れた塔の島〉まで送り届ける、マーランク島の渡し守をしていた。
ある日、領主の14歳の娘ガブリエルが病死した。
その翌朝、母親が渡し守のもとを訪れ、娘の青い靴を差し出した。そうしなければ、靴を手に入れた死者が島をうろつき回るのだ。死者の目を覗き込んでしまった者は、直ぐに死を迎える。
ところが領主は、魔術師の闇の業で娘を蘇らせようと計画していた。娘の靴を取り戻しに来て、渡し守を殺してしまう。レイフは囚われの身となった。
そこでマイロは、6人の死者の魂を送り届けるべく、〈夕べの雌馬〉号で出航する。
しかし領主の大きな交易船〈運命の女神〉号が、武装した家来と黒魔術師2人を引き連れて、躍起になって〈夕べの雌馬〉号を追っていた・・・

<感想>
素敵な挿絵が多く、楽しくて、絵本のようにすらすら読める。そして最後は感動的な物語になっている。
主人公は、父から渡し守の助手にも無理だと言われていた。家族の中で自分だけが弱くて、役立たずだと思っている臆病な少年。渡し守の知識も経験も無くて、危険な旅の仲間は死者の霊だけ。それに〈壊れた塔の島〉は、いつも同じ場所にあるわけではない。ぶっつけ本番の航海である。
未知の不気味な海域、喪失を養分にする疑念と困惑の物体、死者の領域、死者の通過点である〈壊れた塔の島〉でのエピソードなどが相まって、凄く面白い冒険ファンタジーだと思う。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:36| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月08日

月影の乙女

乾石智子 著
装画 ㋐㋷㋜㋣レーター

<あらすじ>
〈満てる海〉にあるハスティア大公国は、精霊の恵み深き国。フォーリ(魔法師)たちは、未来が見える幻視、予知や透視、動物との共感、鋼の魔法など、それぞれの得意分野で国に仕えている。「魔法で人を傷つけてはならない」という掟があり、攻撃を受けた時も、使っていいのは防御の魔法だけとされていた。
セレの領主の次女ジオラネル(ジル)の魔力は、幼少から傑出していた。9歳のとき、事ある毎に独りと呟く〈月ノ獣〉が胸底に棲みつき、ジルは孤独を悟った。
3年後、ジルは故郷を離れ、最年少のフォーリ訓練生となった。4年間の訓練と学びを終え、同期の11人全員が卒業を認められた。ジルは公太子の護衛騎士フォーリに任命される。そして隆盛期のハスティアに、斜陽のアトリア連合王国の第4王女マナランが嫁いできた。
その祝宴には、独裁国家であるドリドラヴ大王国の竜に変身できるウシュル・ガル王も招待されていた。ウシュル・ガルは、ハスティアの富、繁栄、フォーリの力に気づき、征服すべく情報収集に乗り出す。
そうした中、ハスティアの女大公フレステル2世が身罷った。翌年の春、新大公の戴冠式が国を挙げて行われた。
しかし、国の命運を決める戦いが迫っていた・・・

<感想>
〈オーリエラント〉シリーズではない。
〈万人の僕〉である魔法師は、大地を護り、人々を助け、月の導きに従う者。ハスティアはフォーリの戦力を放棄した国だが、民は幾許かの魔力を生まれながらに持っている。そんなハスティア史上最年少で魔法師になった少女の活躍と心の成長を描く、凄く面白いファンタジーだと思う。
作者が紡ぎ出す世界観、人々の言動や生活と景観描写、キャラクター造形とストーリー展開も秀逸だ。
町を焼き払う火竜の襲撃とハスティアの応戦、国の存亡をかけた戦いは迫力があり、スリリングだ。
そして、フォーリの仕事と諜報活動、ジルと同期の友情、〈イリーア〉という不思議な生き物、国家に関わる謀略、ウシュル・ガルの野望とその戦略、父王の命令で外国に送り込まれた兄弟の試練、犠牲と禁忌と覚悟と審判、怨念と罪悪感と復讐、喪失の哀しみと未来へ託すもの等々、凄く読み応えのある児童書だと思う。
満足度 5.gif




posted by ももた at 08:57| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月03日

死の森の犬たち

アンソニー・マゴーワン 著
尾崎愛子 訳 「DOGS OF THE DEADLANDS」
カバーイラスト・挿絵 キース・ロビンソン

<あらすじ>
1986年4月26日、旧ソビエト連邦ウクライナ共和国のプリピャチにあるチェルノブイリ原子力発電所で爆発事故が起き、高レベルの放射性物質が大量に放出された。その後、爆発現場の周囲2600平方キロメートルが立ち入り禁止区域に指定された。区域内の住民は直ちに避難するよう指示され、ペットを連れて行くことは許されなかった。置き去りにされたペットの多くは兵士に射殺された。
原発事故があった日は、爆発現場から10キロしか離れていないプリピャチの小学校に通う、ナターシャ・タラノヴァの7歳の誕生日だった。両親から、狼の血を引くサモエドの仔犬をプレゼントしてもらい、ゾーヤと名付けた。ゾーヤの片目は氷のように冷たい青色で、もうひとつは柔らかな茶色をしていた。
その翌日、兵士たちがアパートにやって来た。ナターシャの家族はキエフへ避難するため、最愛の仔犬を置いて最後尾のバスに乗り込んだ。
ゾーヤはその後を懸命に追うが、バスの大群は町を出るとスピードを上げ、見えなくなった。脚が疲れて走れなくなったゾーヤは、森の中で倒れてしまう。そこへ長年独りきりで森に住んでいる老女カテリーナ・ソバルが現れ、傷心のゾーヤを保護するが・・・

<感想>
科学者となったナターシャが、汚染区域の故郷へ帰還したのは22年後だった。チェルノブイリ原発事故で故郷と父を喪ったナターシャの孤独と傷心や成長、汚染区域の森で逞しく生き抜いたゾーヤ、そしてゾーヤの息子で狼の血が流れているミーシャとブランタン兄弟の冒険を描く、凄く面白い喪失と再生と奇跡の物語だと思う。
野生の熊や狼、バイソンと猪と山猫など、殺し屋が棲息する過酷な環境で生き延びるための知恵と狩りの旅、犬の群れと狼集団の生死を懸けた農場の戦いなど、スリル満載だ。読みだしたら止められないだろう。
そしてゾーヤ親子と関わる老女カテリーナ、チェルノブイリ原子力発電所の守衛ワディム・コルニロフの存在も重要だ。寄り添い慰め支え合う、その交流に癒される。運命的な絆や奇跡の出会いに感動した。
また読後感もとても良く、多くの若者に読んでもらいたい優れた動物文学だと思う。
満足度 5.gif


posted by ももた at 08:47| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。