関口英子 訳 「IL TRENO DEI BAMBINI」
装画 Naffy
<あらすじ>
第二次世界大戦後の1946年、南イタリアのナポリ。
貧しい路地裏にある狭いアパートで暮らす、もうすぐ8歳の少年アメリーゴ・スペランツァは、読み書きのできない寡黙なアントニエッタ母さんを健気に助け、知恵を働かせて逞しく生きていた。
ところが、共産党が率先して推し進めていた「幸せの列車」の活動により、アメリーゴは住み慣れた家や街、たったひとりの肉親である母親から離され、子供たちばかりを大勢集めて走る特別列車に乗せられた。
子供たちはロシアへ送られるかもしれないと怯えていた。発車直前に新しく貰ったオーバーコートを列車の窓から投げ、母親たちがそれを受け取って見送りの兄弟に着せた。
列車は所々の駅に停車し、新しい子供たちを乗せ、長時間かけて北イタリアのボローニャ駅に到着した。
アメリーゴは、コミュニストの女性デルナに引き取られ、モデナという町で暮らすことになった。
翌日、デルナは仕事へ行き、アメリーゴを従姉のローザに預けた。ローザには楽器修理職人の夫アルチーデとの間に、10歳のリヴォと、もうすぐ7歳になるルヴィオと、まだ赤ん坊のナリオがいた。家の裏には畑があって、家畜も飼っていた。
アメリーゴは学校から帰るとローザの家で過ごし、夜になるとデルナが迎えに来た。最初のうちは少し寂しかったが、彼らは本当の息子のように接してくれた。アメリーゴはだんだん慣れていき、そのうち自分の家よりも居心地が良くなる。
しかし、とうとうアメリーゴが故郷へ帰る日がやってきた・・・
<感想>
「幸せの列車」とは、戦禍で荒廃が続いていた南部の困窮家庭の子供たちを、暮らしの安定していた北部の裕福な家庭へ送り届けるために、1946年から1952年まで運行されていた特別列車のこと。
子供たちは見ず知らずの人たちが暮らす、言葉も食べ物も違う別世界に放り込まれた。
しかし子供たちは、冬の間だけ飢えと貧困から解放された。清潔な服と新しい靴、教育を与えられ、しっかり面倒を見てもらい、祭りや誕生日パーティーなど、楽しいイベントも体験する。
アメリーゴは生まれて初めて自分だけの物(誕生日プレゼントのヴァイオリン)を手に入れた。新しい家族との生活には、アメリーゴが欲しいと望むもの全てがあった。
困窮生活と新しい家族との生活とその後の生活、そして恐れと羞恥心、不安や怯え、心細さと寂しさ、喜びと感動、希望の芽生えと絶望、悲しみと憤りなど、少年の複雑な胸の内を描き、想像以上に面白く読ませる。酷い母親だと思っていたアントニエッタが、最後にやっと正しい判断をして良かったと思った。
そして1994年、50代半ばのアメリーゴが母の葬儀のために帰郷する話は、味わい深く感動した。
また、パルチザン闘争とナポリの4日間(占領ドイツ軍に対する民衆蜂起)、王制の廃止(ファシズムの崩壊後、1946年6月の国民投票によって王制の廃止が決定、共和制へ移行した。)、当時のイタリアの社会状況など、勉強になった。
日本人は戦争に負けて自由と民主主義を手に入れたけれど、イタリアは国民が戦っている。考えさせられたな。多くの方に読んでもらいたい良書だと思う。

人気ブログランキング