2022年12月12日

「幸せの列車」に乗せられた少年

ヴィオラ・アルドーネ 著
関口英子 訳 「IL TRENO DEI BAMBINI」
装画  Naffy

<あらすじ>
第二次世界大戦後の1946年、南イタリアのナポリ。
貧しい路地裏にある狭いアパートで暮らす、もうすぐ8歳の少年アメリーゴ・スペランツァは、読み書きのできない寡黙なアントニエッタ母さんを健気に助け、知恵を働かせて逞しく生きていた。
ところが、共産党が率先して推し進めていた「幸せの列車」の活動により、アメリーゴは住み慣れた家や街、たったひとりの肉親である母親から離され、子供たちばかりを大勢集めて走る特別列車に乗せられた。
子供たちはロシアへ送られるかもしれないと怯えていた。発車直前に新しく貰ったオーバーコートを列車の窓から投げ、母親たちがそれを受け取って見送りの兄弟に着せた。
列車は所々の駅に停車し、新しい子供たちを乗せ、長時間かけて北イタリアのボローニャ駅に到着した。
アメリーゴは、コミュニストの女性デルナに引き取られ、モデナという町で暮らすことになった。
翌日、デルナは仕事へ行き、アメリーゴを従姉のローザに預けた。ローザには楽器修理職人の夫アルチーデとの間に、10歳のリヴォと、もうすぐ7歳になるルヴィオと、まだ赤ん坊のナリオがいた。家の裏には畑があって、家畜も飼っていた。
アメリーゴは学校から帰るとローザの家で過ごし、夜になるとデルナが迎えに来た。最初のうちは少し寂しかったが、彼らは本当の息子のように接してくれた。アメリーゴはだんだん慣れていき、そのうち自分の家よりも居心地が良くなる。
しかし、とうとうアメリーゴが故郷へ帰る日がやってきた・・・

<感想>
「幸せの列車」とは、戦禍で荒廃が続いていた南部の困窮家庭の子供たちを、暮らしの安定していた北部の裕福な家庭へ送り届けるために、1946年から1952年まで運行されていた特別列車のこと。
子供たちは見ず知らずの人たちが暮らす、言葉も食べ物も違う別世界に放り込まれた。
しかし子供たちは、冬の間だけ飢えと貧困から解放された。清潔な服と新しい靴、教育を与えられ、しっかり面倒を見てもらい、祭りや誕生日パーティーなど、楽しいイベントも体験する。
アメリーゴは生まれて初めて自分だけの物(誕生日プレゼントのヴァイオリン)を手に入れた。新しい家族との生活には、アメリーゴが欲しいと望むもの全てがあった。
困窮生活と新しい家族との生活とその後の生活、そして恐れと羞恥心、不安や怯え、心細さと寂しさ、喜びと感動、希望の芽生えと絶望、悲しみと憤りなど、少年の複雑な胸の内を描き、想像以上に面白く読ませる。酷い母親だと思っていたアントニエッタが、最後にやっと正しい判断をして良かったと思った。
そして1994年、50代半ばのアメリーゴが母の葬儀のために帰郷する話は、味わい深く感動した。
また、パルチザン闘争とナポリの4日間(占領ドイツ軍に対する民衆蜂起)、王制の廃止(ファシズムの崩壊後、1946年6月の国民投票によって王制の廃止が決定、共和制へ移行した。)、当時のイタリアの社会状況など、勉強になった。
日本人は戦争に負けて自由と民主主義を手に入れたけれど、イタリアは国民が戦っている。考えさせられたな。多くの方に読んでもらいたい良書だと思う。
満足度 5.gif



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『僕たちは希望という名の列車に乗った』  『沈黙する教室 』
   

『ミシンの見る夢』ドナテッラ・ディ・ピエトラントニオ『戻ってきた娘』
   


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posted by ももた at 08:48| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月06日

ウクライナにいたら戦争が始まった

松岡圭祐 著

<あらすじ>
17歳の女子高校生・瀬里琉唯(るい)は、単身赴任中の父と3か月だけ過ごすため、コロナ禍のなか母と4歳年下の妹・梨央奈と共に冬のウクライナにやって来た。
キエフ郊外のブチャで暮らし、外国人学校にも慣れてきた頃、ロシアによる侵攻が近いとのニュースが流れる。そして日本政府から退避勧告が出て、父の会社からも帰国指示があった。一家は慌ただしく帰国の準備を進め、空港に向かった。
ところが、検疫で梨央奈の新型コロナウイルス陽性が確定し、即刻退去と帰宅を命じられた。一家は再び恐ろしく混み合う高速道路を経て、ブチャに舞い戻った。
誰にも症状は見当たらないが、外出を禁止され、一家は事情の良く分からない国で孤立状態となった。
そうした中、ロシアがウクライナに攻め込んできた。翌日、ウクライナ全土に非常事態宣言が出た。大使館と連絡がつき、ブチャから南へ60キロ程の、空軍基地のあるヴァスィリキーウを経由する警備付きの長距離バスが、2日後にあると知らされた。一家はそこまで車で行き、警備付きのバスに乗車して国外脱出することにした。
ところが翌日、夜間外出禁止令を伴う戒厳令が出た。そして家が強烈な震動に見舞われ、遠くから響く爆撃音に不安と緊張が高まる。どうやら軍事基地がミサイル攻撃されているらしい。そこで一家は、給油とブチャ中心部の状況把握のため、車を走らせた。しかし路上を往来する車はなく、ゴーストタウン化しており、店もガソリンスタンドも営業していなかった。一家はまたしても家に舞い戻り、4日後にキエフ州の西へ連れて行ってくれるという軍のトラックを待つことにした。
ところが、待機中に震動と轟音の頻度が徐々に増していき、軍の総動員令が出て18歳から60歳のウクライナ人男性は国外への避難が禁止された。続いてテレビ放送が途絶え、スマホも電波が入らないので、外からの情報は一切入らなくなった。
そして待機3日目、明日の朝早くここを去ろうという日にロシア軍が攻め込んできて、ブチャは一瞬にして戦場と化した・・・

<感想>
2011年3月11日、東日本大震災で幕が開く。当時、瀬里家は福島県に住んでいて被災した。それから11年後、ロシアが2月24日にウクライナ侵攻を開始した。今度は戦争に巻き込まれるのだ。
馬鹿正直に指示に従って逃げ遅れた一家の災難、戦地の流動的な状況、凄惨な戦争の実態など、興味深く勉強になった。
そして臨機応変と冷静な判断や情報収集の大切さ、自分の命を守るのは自分しかいないと教えられる。一読の価値がある小説だと思う。
満足度 3.gif



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ネビル・シュート
『パイド・パイパー 自由への越境』  『渚にて 人類最後の日』
   


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posted by ももた at 09:25| 東京 ☔| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月28日

八月の母

早見和真 著

<あらすじ>
27歳の美容師・陽向と、飲料メーカー勤めの5つ年上の夫・健次は、多感な時期を過ごした街を心の底から恨んでいた。
父親のいない越智エリカは、1977年8月15日に愛媛県伊予市で生まれた。小さい頃から絶対に男を信用するなと言われて育った。瀬戸内海に面したこの街から出て行くのが夢だった。
しかし、スナックを経営する母・美智子が逃がしてくれなかった。10代のエリカは、母と同じようにシングルマザーとなった。父親の違う子供を3人も生み、母子が暮らす団地の一室は、行き場のない少女たちや不良少年たちの溜まり場になって行く。
そうした中、茹だるような猛暑だった2013年8月、事件は起きた・・・

<感想>
読了後、胸が痛くなる。感情をコントロールできない人間が怖くなった。
二度と起きてはいけない、悍ましく残虐非道な事件を描いており、ネグレクト、性的虐待、弱い者虐め、家庭内暴力、男に翻弄される母親、家庭の歪みと共依存、祖母から母へ娘へと続く負の連鎖、忌み嫌う親の遺伝子と生育環境、閉鎖的な性差別、少年少女の非行、集団ヒステリー等々、考えさせられたな。
満足度 3.gif



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マイクル・コナリー『ダーク・アワーズ』
   


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ラベル:早見和真 星3
posted by ももた at 09:11| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。