2025年05月09日

迷惑な終活

内館牧子 著

<あらすじ>
1948年新潟市生まれの原英太は、今年75歳の後期高齢者になった。妻の礼子と横浜で年金暮らしだが、40歳の時に無理して買った家があり、年老いた母が同居しても退職金と預貯金で最低限の生活は維持できている。礼子は71歳の今年から終活を始めているが、英太は「生きているうちに死の準備はしない」という主義で、ずっと終活を避けていた。
そんな中、母が93歳の誕生日を目前にして、熱中症で死亡した。葬儀や法要と納骨を済ませた後、同年代の友人と話した英太は、体が動くうちにやり残したことをやると決め、自分の人生にケリをつけるための終活を公言する。
ところが周囲を巻き込み、思わぬ事態に発展していく・・・

<感想>
老人になっても違う男女の精神構造、「他人軸」と「自分軸」、誰かと暮らしたいと安心安全を求めた時から老人になる、老人こそ健康とお金が大事、姑の処世術、煩わしい俗世間が高齢者を元気にする等々、改めて気づかされた。
息子夫婦と同居しても、置き膳とルームサービス、シビアな会計処理、息を潜めて暮らすのは少し寂しいかな。
純愛の女と再会する男、70代を黄金期にした男、高級老人ホームに入居して社会貢献する老夫婦、男が妻子の元へ帰り捨てられた不倫女、妻の損得勘定と40年後の仕返しなど、団塊の世代のケリとカタとトドメの終活を描く、面白い終活小説だと思う。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:57| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年04月16日

太陽を背にうけて

樋口明雄 著

<あらすじ>
経営マネジメントをしていた里村乙彦は、定年退職したその日に妻から離婚届を突きつけられた。
妻が出て行って以来、自暴自棄なって部屋に引きこもり、酒浸りになっていたところ、娘から「新たな生き甲斐を見つけるべきだ」とアドバイスされた。
そこで里村は、再就職を本気で考え、断酒する。山に夢中だった若い頃のことを思い出し、現実逃避したくて山小屋のアルバイトに応募した。若者に交じって一生懸命働き、人生のやり直しを目指すが・・・

<感想>
舞台は日本第2の高峰、南アルプス北岳にある肩の小屋。人生の崖っぷちに立たされている前期高齢者、陸上自衛隊員だった3代目管理人、その父親である2代目管理人、他に居場所がなかったバイトスタッフの女性、この4人の視点でストーリーが進む。
「山小屋」「天使の梯子」「名残り花」「ストレイドッグ」「白虹」「太陽を背にうけて」の6話構成になっており、「終章」は里村と娘の話。
陸上自衛隊時代のエピソード、山小屋に自分でやって来た迷い犬、自分たち中心のやり方を通してきた芸能人の迷惑行動などを絡め、山小屋の仕事と働く人々を描く、面白い山岳小説だと思う。
満足度 3.gif


posted by ももた at 10:12| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年04月08日

C線上のアリア

湊かなえ 著
装画 堀北阿希

<あらすじ>
中学3年生の夏に両親を交通事故で亡くした美佐は、山間部の田舎町にある夫の生家で独り暮らしをしている母方の叔母・弥生に引き取られ、高校時代を過ごした。
それから約30年、叔母に認知症の症状が見られると役場から連絡があり、美佐は懐かしい故郷を訪れた。
ところが家はごみ屋敷になっていた。美佐は、その日のうちに役場の介護保険課の相談窓口へ行く。
1ヶ月後、叔母が介護施設に入居した。それから美佐は、ひとりでごみ屋敷の片付けを始めた。
すると弥生の部屋で年季の入った2つダイヤルの大きな金庫を発見した。その話したところ、叔母は過呼吸を起こした。
業者に解錠を依頼すると、金庫は日本の老舗金庫メーカーの百万変換ダイヤルと呼ばれる防犯に特化した業務用だった。中に入っていたのは黒い延長コードだった・・・

<感想>
テーマは、「CARE(介護)」と「CHAIN(絆という束縛)」。巧妙な伏線と謎めいた展開にそそられて一気読みしてしまった。
高齢者を狙った詐欺や家庭に不満がある主婦の教養教室と交換家事のエピソードなどを絡め、時代が変わっても育児や介護、嫁姑問題など、同じ悩みを抱える女たちを描く、ミステリ風味の面白い長編小説だと思う。
満足度 4.gif


posted by ももた at 09:14| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。