2024年12月03日

死の森の犬たち

アンソニー・マゴーワン 著
尾崎愛子 訳 「DOGS OF THE DEADLANDS」
カバーイラスト・挿絵 キース・ロビンソン

<あらすじ>
1986年4月26日、旧ソビエト連邦ウクライナ共和国のプリピャチにあるチェルノブイリ原子力発電所で爆発事故が起き、高レベルの放射性物質が大量に放出された。その後、爆発現場の周囲2600平方キロメートルが立ち入り禁止区域に指定された。区域内の住民は直ちに避難するよう指示され、ペットを連れて行くことは許されなかった。置き去りにされたペットの多くは兵士に射殺された。
原発事故があった日は、爆発現場から10キロしか離れていないプリピャチの小学校に通う、ナターシャ・タラノヴァの7歳の誕生日だった。両親から、狼の血を引くサモエドの仔犬をプレゼントしてもらい、ゾーヤと名付けた。ゾーヤの片目は氷のように冷たい青色で、もうひとつは柔らかな茶色をしていた。
その翌日、兵士たちがアパートにやって来た。ナターシャの家族はキエフへ避難するため、最愛の仔犬を置いて最後尾のバスに乗り込んだ。
ゾーヤはその後を懸命に追うが、バスの大群は町を出るとスピードを上げ、見えなくなった。脚が疲れて走れなくなったゾーヤは、森の中で倒れてしまう。そこへ長年独りきりで森に住んでいる老女カテリーナ・ソバルが現れ、傷心のゾーヤを保護するが・・・

<感想>
科学者となったナターシャが、汚染区域の故郷へ帰還したのは22年後だった。チェルノブイリ原発事故で故郷と父を喪ったナターシャの孤独と傷心や成長、汚染区域の森で逞しく生き抜いたゾーヤ、そしてゾーヤの息子で狼の血が流れているミーシャとブランタン兄弟の冒険を描く、凄く面白い喪失と再生と奇跡の物語だと思う。
野生の熊や狼、バイソンと猪と山猫など、殺し屋が棲息する過酷な環境で生き延びるための知恵と狩りの旅、犬の群れと狼集団の生死を懸けた農場の戦いなど、スリル満載だ。読みだしたら止められないだろう。
そしてゾーヤ親子と関わる老女カテリーナ、チェルノブイリ原子力発電所の守衛ワディム・コルニロフの存在も重要だ。寄り添い慰め支え合う、その交流に癒される。運命的な絆や奇跡の出会いに感動した。
また読後感もとても良く、多くの若者に読んでもらいたい優れた動物文学だと思う。
満足度 5.gif


posted by ももた at 08:47| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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