解説 児玉清
<あらすじ>
終戦から60年目の夏、4年連続で司法試験に落ちてしまい人生の目標を失いかけている26歳の佐伯健太郎と、その4歳年上の姉でフリーライターの慶子は、終戦の数日前に神風特攻隊員として南西沖で戦死した祖父・宮部久蔵のことを調べていた。
すると元戦友たちの証言から浮かび上がってきた宮部久蔵の人物像は、戦闘機乗りとして凄腕を持つ天才だが、生き残ることに執着する臆病者だった。姉弟は想像と違う祖父像に戸惑い、調査をするのが辛くなる。
そんなある日、健太郎は四国の松山に住む元戦友を訪ね、戦闘機の搭乗員としての太平洋戦争の体験談を聞いて圧倒される。
そして、「死にたくない。命は何よりも大事。」と言い続けた男がなぜ自ら零戦に乗り命を落としたのかという謎が浮かんでくる・・・
<感想>
零戦の正式名称は三菱零式艦上戦闘機。開戦当初は、卓越した格闘性能と高速、3000キロを楽々と飛ぶ長大な航続距離を兼ね備えた無敵の戦闘機だった。そして戦闘機乗りは、当時の少年の憧れだった。
敵味方の戦闘機が入り乱れて死と隣り合わせの乱戦のうえ、墜落イコール死という過酷な空中戦、艦上戦闘機の任務「艦隊直衛」「艦攻」「艦爆」など、勉強になった。
また、真珠湾攻撃、空母機動部隊同士が正面から激突した歴史上最初の海戦「珊瑚海海戦」、ミッドウェー島攻略作戦の敗北、ラバウル航空隊による太平洋戦争最大の激戦地ガダルカナルの戦い、ガダルカナル島で戦った陸軍兵の悲劇など、読み応えがあった。
日本人ならば、自己犠牲と愛国の精神に心を揺さぶられるだろう。
しかし「第7章 狂気」になると、歴戦の零戦搭乗員が次々と戦死してしまい、読むのが辛くなる。負け戦と分かっていて何故軍上層部は若者を死に追いやったのか、理解できない。最後は感動的な奇跡の物語になっているが、元戦闘員たちの体験談が心に突き刺さり、いろいろ考えさせられて素直に喜べないな。