2024年12月27日

永遠の0

百田尚樹 著
解説 児玉清

<あらすじ>
終戦から60年目の夏、4年連続で司法試験に落ちてしまい人生の目標を失いかけている26歳の佐伯健太郎と、その4歳年上の姉でフリーライターの慶子は、終戦の数日前に神風特攻隊員として南西沖で戦死した祖父・宮部久蔵のことを調べていた。
すると元戦友たちの証言から浮かび上がってきた宮部久蔵の人物像は、戦闘機乗りとして凄腕を持つ天才だが、生き残ることに執着する臆病者だった。姉弟は想像と違う祖父像に戸惑い、調査をするのが辛くなる。
そんなある日、健太郎は四国の松山に住む元戦友を訪ね、戦闘機の搭乗員としての太平洋戦争の体験談を聞いて圧倒される。
そして、「死にたくない。命は何よりも大事。」と言い続けた男がなぜ自ら零戦に乗り命を落としたのかという謎が浮かんでくる・・・

<感想>
零戦の正式名称は三菱零式艦上戦闘機。開戦当初は、卓越した格闘性能と高速、3000キロを楽々と飛ぶ長大な航続距離を兼ね備えた無敵の戦闘機だった。そして戦闘機乗りは、当時の少年の憧れだった。
敵味方の戦闘機が入り乱れて死と隣り合わせの乱戦のうえ、墜落イコール死という過酷な空中戦、艦上戦闘機の任務「艦隊直衛」「艦攻」「艦爆」など、勉強になった。
また、真珠湾攻撃、空母機動部隊同士が正面から激突した歴史上最初の海戦「珊瑚海海戦」、ミッドウェー島攻略作戦の敗北、ラバウル航空隊による太平洋戦争最大の激戦地ガダルカナルの戦い、ガダルカナル島で戦った陸軍兵の悲劇など、読み応えがあった。
日本人ならば、自己犠牲と愛国の精神に心を揺さぶられるだろう。
しかし「第7章 狂気」になると、歴戦の零戦搭乗員が次々と戦死してしまい、読むのが辛くなる。負け戦と分かっていて何故軍上層部は若者を死に追いやったのか、理解できない。最後は感動的な奇跡の物語になっているが、元戦闘員たちの体験談が心に突き刺さり、いろいろ考えさせられて素直に喜べないな。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:50| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月25日

聖夜の嘘

キャメロン・ウィンター・シリーズ @
アンドリュー・クラヴァン 著
羽田詩津子 訳 「WHEN CHRISTMAS COMES」

<あらすじ>
アメリカ陸軍基地の現役軍人や退役軍人が大勢住む湖畔の小さな町スイート・ヘヴン。
雪に覆われたクリスマス間近のある夜、小学校の若い司書ジェニファー・ディーンが殺害された。彼女は新参者だったが、町民から愛されていた。
逮捕されたのは、ブレイク家の3代目のアーミー・レンジャーで、ジェニファーと交際していたシングルファザーのトラヴィス。彼の自宅から血痕が見つかり、防犯カメラの映像に遺体を運ぶ姿が残されていた。
トラヴィスは犯行を認め、遺体を湖に捨てたと自供したが、国選弁護人のヴィクトリア・グロスバーガーは違和感を覚える。そんなとき、学生時代に社会のルールに背く情熱的な関係だった「一風変わった思考の習慣」を持つ英文学の大学教授キャメロン・ウィンターが、湖水地方の誘拐事件を解決した記事を読み、ヴィクトリアは彼の力を借りることにした。
元海軍特殊部隊員のウィンターはスイート・ヘヴンに赴き、全ての証拠がトラヴィスの有罪を示している事件の真相を探るべく聞き込みを始めるが・・・

<感想>
主人公のキャメロン・ウィンターは30代半ばの知的なイケメン。67歳のサイコセラピストでさえ魅了される。
謎に直面すると起こる「一風変わった思考の習慣」とは、他人の思考に入り込み、想像力によって事実を補いながら事件の真相を解明する特殊能力のこと。
哀れな金持ちの少年だったウィンターの恋、クリスマスの幸せな家族に隠されていた裏切りの物語、ウィンターの孤独と渇望と憂鬱の源、トラヴィスを毒してきた苦しみとその妹の心を蝕む闇、ジェニファーの秘密と正体、驚愕の真相と感動的な結末などが相まって、凄く面白いミステリだと思う。本作はシリーズ化している。続編が楽しみだな。
満足度 5.gif

<キャメロン・ウィンター・シリーズ作品リスト>

@『聖夜の嘘』 A『A Strange Habit of Mind』

B『The House of Love and Death』 C『A Woman Underground』


posted by ももた at 09:21| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月19日

バター・コーヒーの舞台裏

コクと深みの名推理シリーズ S
クレオ・コイル 著
小川敏子 訳 「Bulletproof Barista」
カバーイラスト 藤本将

<あらすじ>
往年の大スター、ジェリー・サリバンの番組の撮影ロケ地にビレッジブレンドが選ばれた。食べることで寂しさを紛らわせ、太ってしまった自分を詰まらない存在と感じて燻っていた少女時代、クレアにとってジェリーのコメディは心の支えだった。クレアとスタッフは大喜びする。
ところが撮影初日、制作プロダクションが、ビレッジブレンドと対立関係にあるドリフトウッド・コーヒーのフードトラックを連れて来て、7日間の撮影期間中に出演者と撮影クルーに食事と軽食、コーヒーまで提供すると言う。ビレッジブレンド店内の空気は最悪になる。
そうした中、小道具責任者のフレッド・デンハムが、ドリフトウッドのエスプレッソを飲んだ直後に倒れて救急搬送された。
撮影2日目、小道具の拳銃から空包の代わりに実弾が発射され、キャストとして参加したバリスタのタッカーが、自己判断で防弾ベストを身に着けていたお陰で命拾いした。何者かが銃に実弾を装填していたのだ。
ところがジェリーは警察への通報を阻止し、事実の隠蔽をクレアたちに持ち掛け、その見返りを提示してきた。それはマダムへの「借りを返す」ためでもあると言う。クレアたちはジェリーに説き伏せられてこの提案に同意した。
しかし番組の制作現場で起きている問題は、思いがけない展開になって行く。クレアは婚約者であるマイク・クィン刑事が任命する非公式の協力者として、元夫マテオの協力も得つつ、真相解明に乗り出すが・・・

<感想>
物語の舞台は、世界一抜け目のない人間がひしめき、金と文化が渦巻く街。そこで暮らす人々は、綺麗ごとだけではない社会に揉まれながら、必死に生き抜こうとする。ペンシルベニア州西部の工場町の労働者階級生まれのクレアも、甘くはない現実に揉まれながら、しっかりとこの街に根を張って生きてきた。
一方コメディアンは、何でも笑いのネタにする。ショービジネスにはゴタゴタや混乱と賄賂はつきもの。そしてエンターテインメント業界に蔓延る新手のデザイナードラッグと沈黙の掟。
そんな縁故社会と撮影現場の人間模様、そして犯罪を軽快な文章で描く、面白いコージーミステリだと思う。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:36| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。