2024年05月31日

あの夏が教えてくれた

アレン・エスケンス 著
務台夏子 訳 「Nothing More Dangerous」

<あらすじ>
1976年、米国ミズーリ州の小さな田舎町ジェサップ。
幼い頃に父を亡くした15歳の少年ボーディ・サンデンは、母と忠犬グローバーとで小さな平屋に住んでいた。通っているカトリックの高校に馴染めず、友達もいない。母の勤務先で倉庫掃除のアルバイトをしながら、寂しい日々を送っている。
そんなある日、35歳の黒人女性ライダ・ポーが失踪した。彼女は、町最大の雇用主であるプラスチック加工会社の購買部で働いていた。
2週間後、ボーディが慕っている隣人ホーク・ガードナーの家に、失踪事件を捜査しているヴォーン保安官が訪ねてきた。
ライダ・ポーはかつてホークの事務所で働いていた。離婚後、ホークを追うようにしてジェサップにやって来た。
ホークと保安官の話を盗み聞きしたボーディは、自分が隣人について殆ど何も知らないことに気づく。
そうした中、サンデン家の向かいの空き家に、黒人のエルギン一家が引っ越してきた。
一家の息子トーマスとボーディは同じ年だった。少年たちは夏休みに森へキャンプに行き、白人至上主義グループのアジトとライダ・ポーの遺体を発見する・・・

<感想>
本書は、『償いの雪が降る』と『たとえ天が落ちようとも』に登場する元弁護士で、今はロースクールの教授ボーディの少年時代の物語とのこと。そして原題は、公民権運動に尽力したキング牧師の言葉からとられているそうだ。
偏見と人種差別と学校のヒエラルキー、失踪事件の謎とホークの過去、故郷脱出を夢見ている主人公の葛藤と成長、思春期の少年たちの友情、保守的な田舎町の人間関係などが相まって、感動的な青春小説だと思う。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:19| 東京 ☔| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月23日

金庫破りとスパイの鍵

金庫破りときどきスパイ・シリーズ A
アシュリー・ウィーヴァー 著
辻早苗 訳 「The Key To Deceit」
カバーイラスト 長崎訓子

<あらすじ>
1940年、第二次世界大戦下の英国ロンドン。マクドネル家は表向き錠前屋、その裏で金庫破りを生業としていた。
ところが金庫破り中、エリーとミック伯父は諜報活動をしているラムゼイ陸軍少佐に捕まり、国の為の金庫破り仕事にスカウトされた。
8月のある晩、鍵のかかったブレスレット状の装置をつけた若い女性の死体が、テムズ川で発見された。
エリーは、ラムゼイ少佐の依頼でその鍵を解錠する。検視の結果、女性の死因は毒殺で、ブレスレットはスパイが使うカメラだった。コートの裏地には、時計の巻き鍵と高価な宝石が隠されていた。死んだ女性はスパイ活動をしていたのだ。
そんな折、ドイツ人スパイがロンドンに向かっているという情報が入る。エリーとラムゼイ少佐は、ナチスの為にスパイ活動をしている組織を焙り出すべく、カップルのふりをして調査に乗り出すが・・・

<感想>
戦中の非常時でも、エリーたちは最善を願いつつ、前向きに生きようとしている。そこが好い。
そしてエリーの恋愛生活、母の事件と家族の秘密、裏稼業の知り合い、ロンドン大空襲と銀行襲撃などを描き、面白く読ませる。伏線とその回収も見事だ。
凄腕の金庫破りとその仲間、堅物の青年将校の活躍を描く、面白いコージーミステリだと思う。
満足度 4.gif


posted by ももた at 09:51| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月21日

消えた子供 トールオークスの秘密

2017年英国推理作家協会(CWA)新人賞受賞
クリス・ウィタカー 著
峯村利哉 訳 「TALL OAKS」
カバーイラスト 亀谷哲也

<あらすじ>
全米でも犯罪発生率が最低の部類に入る小さな町トールオークス。殆どの町民は裕福な階層に属しており、守るべき家名を背負っている。
ある嵐の晩、地階にある子供部屋にひとりで寝かせていた3歳の息子ハリーが、忽然と消えた。
子供部屋には、最新型の赤ちゃんモニターが設置されていた。シングルマザーのジェスによれば、ハリーがいなくなる直前、そのモニターから彼女の名前を呼ぶ声が聞こえ、ピエロのマスクを被った男が息子の部屋にいたと言う。
鑑識班が子供部屋を捜索すると、ピエロのものと思われる緑色の毛が発見された。町民総出で子供を探したが、見つからなかった。拉致犯からの電話も無かった。警察は手掛かりすら掴めなかった。
ハリーが攫われてから3か月が経過し、町民の間で事件への関心が薄れ始める。
そうした中ジェスは、被害者の母親として警察署に足繫く通い、事件が忘れ去られないよう奮闘していた。そして警察署長ジム・ヤングも、手掛かりを求めて捜査を続けていた。
やがて、住民たちそれぞれが抱えている秘密が明らかになって行く・・・

<感想>
本筋である事件をそっちのけにして、ギャング気取りの男子高校生とその家族、写真館の男性店員とその母親、表面上は似合いであるジェスの叔母夫婦など、トールオークスの町民をユーモアとウイットの利いた筆致で描き、楽しく読ませる。しかもそこには事件解決の伏線が散りばめられていた。
次第に明らかになる住民たちの秘密、ジェスとジムの関係、フォードの販売員ジャレッドを巡る騒動の顛末、恐ろしい真相などが相まって、凄く面白いミステリだと思う。それに毒のある母親の看護をしていた巨漢が、最後に報われてほっとした。
しかし、ジムの暴力行使は行き過ぎだと思う。看過できないな。
満足度 4.gif


posted by ももた at 08:58| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。