2023年12月28日

アリアドネの声

井上真偽 著
装画 尾崎伊万里

<あらすじ>
実験都市「WANOKUNI」は、最新のIT技術の粋を集め、前衛的な都市計画に基づいて開発された。地上には個人の住宅や教育施設など、最低限の設備だけを残し、商業施設やオフィス、インフラ設備など、街としての機能の大半は地下にある。
ドローンビジネスを展開するベンチャー企業タラリアは、「WANOKUNI」プロジェクトに参加し、防犯システムに自社製品が採用されている。
災害救助用の国産ドローン「アリアドネ」を担当している入社3年目の高木春生、開発部の我聞庸一、スクール事業部の花村佳代子は、オープニングセレモニーに参加するため、「WANOKUNI」にやって来た。
セレモニー終了後、巨大地震が発生する。緊急災害対策本部に連れて行かれた高木は、地下5層の地下鉄駅ホーム付近にいるはずの行方不明者、中川博美の捜索を依頼される。彼女は県知事の姪で、「目が見えない、耳も聞こえない、話せない」という3つの障害を抱えながら、ユーチューバーとして活躍している。
高木は最新型ドローンを使って、彼女を発見したら救援物資を渡して、近くのシェルターへ誘導するという時間制限のあるミッションに挑むが・・・

<感想>
ファーストコンタクトと誘導方法をクリアしても、要救助者と救助チームのコミュニケーションを繋ぐのは1本のワイヤーのみ。余震、漏電、崩落、機体落下の衝撃による視界喪失、ネズミの集団など、救助の障害の凶報が次々と舞い込み、トラブルが続く。
主人公の口癖と兄を見殺しにした罪悪感、障害詐欺疑惑、暴露系ユーチューバー、失声症の少女とその姉などを絡め、ドローンによる災害救助を描く、面白い小説だと思う。
満足度 3.gif


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posted by ももた at 09:11| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月25日

黒い錠剤 スウェーデン国家警察ファイル

〈ヴァネッサ・フランク〉シリーズ A
パスカル・エングマン 著
清水由貴子/下倉亮一 訳 「RATTKUNGEN」

<あらすじ>
4月半ばのストックホルム。エステティシャンのエメリ・リディエンが、アパートメントのリビングで惨殺された。エメリの母親が、週末の間預かっていた孫娘ノーヴァを送り届けに来て見つけた。
警察は、ノーヴァの父親で事件当夜は仮釈放されていた、筋金入りの犯罪者である服役囚カリム・ライマニの犯行と断定する。
ところがエメリのペンから、未解決の強姦未遂事件の犯人の指紋が検出された。
そして、タブロイド紙の記者ジャスミナ・コヴァックがヴァネッサ・フランク警部の元を訪れ、カリムのアリバイを証明した。
そうした中、テレビ司会者オスカル・ショーランデルの不倫相手ラケル・フェディーンが行方不明となり、遺体で発見された。
オスカルが犯人だと示す証拠はあるが、捜査線上に前科のあるホームレスのボリエ・ロディーンが浮上する。
やがて、エメリとラケルの事件の関連が見えてくる。彼女たちは、身近に暴力的な男性がいることで、恰好の犠牲者に選ばれたのだ・・・

<感想>
「インセル(不本意な禁欲主義者を意味し、女性憎悪と結びついた、何万もの男性が匿名掲示板に集うインターネット上の運動。)」をテーマとした警察小説とのこと。
主人公は、若い時に生後間もない娘を亡くし、有名人の夫を若い女性に寝取られた43歳の孤独な女性警部。洞察力が鋭く、美しくてユーモアもあるが、敵に対しては一切容赦しない。
そして、生き甲斐となるものを探している30歳の元特殊作戦部隊員、集団レイプの被害に遭った若い女性記者、女性に無視され続けて凶暴化していく白人男性、ホームレスのカップルなどを描き、ストーリーが進む。真相が判明する終盤は圧巻の展開だ。
社会や家族の亀裂、経済格差、麻薬中毒、暴力とレイプ、女性への憎悪と蔑視など、高福祉と移民の国スウェーデンの闇と社会問題が相まって、とても面白い北欧ミステリだと思う。
本シリーズは、2022年までに5冊出ているそうだ。1作目から読みたかったな。
満足度 4.gif


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『悪い男』   『この密やかな森の奥で』
   

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posted by ももた at 10:42| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月22日

残像

伊岡瞬 著

<あらすじ>
年号が令和に変わった5月の中旬、ホームセンターでアルバイトをしている浪人生・堀部一平は、具合が悪くなった園芸売り場担当のアルバイト・葛城直之を、老朽化したアパートひこばえ荘まで送り届けた。
そこの住人で、年代もライフスタイルも全く異なる女性3人・晴子と夏樹と多恵、小学5年生の冬馬と出会う。成り行きから、葛城直之の67歳の誕生日と多恵の20歳を祝う不思議な宴会に参加する。
その翌日、またしても葛城老人が職場で倒れて病院に搬送された。
葛城は元弁護士で、大腸がんを患っていた。そしてひこばえ荘の女性3人は、元犯罪者だった。
やがて一平は、ひこばえ荘の住人の企みに巻き込まれて行く。
一方、奈良県選出の大物国会議員の息子・吉井恭一は、父親の援助で六本木のタワーマンションに住み、大手デベロッパーの子会社に籍を置いている。いずれは父親の地盤看板を継いで政治家になる心算だが、執拗に送られてくる過去を断罪する写真に苦悩していた。
やがて、1千万円を要求する脅迫文が届く。恭一は送り主を特定し片を付けるべく、元は警視庁特殊部隊の狙撃手だった探偵・須賀圭一に依頼するが・・・

<感想>
身を寄せ合う女性3人の過去と冬馬の辛い体験、政治家の息子の嗜虐癖と幼児体験、ひこばえ荘住人の計画と一平の役割、父と息子の軋轢、政治家と後援会会長の関係等々、面白く読ませる。そして悪党に鉄槌が下り、スカッとするだろう。
しかし、最後は綺麗に巧くまとめた感がするな。
満足度 4.gif


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ジェイソン・レクーラック『奇妙な絵』 加納朋子『1(ONE)』
   

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ラベル:伊岡瞬 星4
posted by ももた at 09:36| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。