2023年11月29日

ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎

学寮付き保健師イモージェン・クワイ・シリーズ A
ジル・ぺイトン・ウォルシュ 著
猪俣美江子 訳 「A PIECE OF JUSTICE」
カバーイラスト 北住ユキ

<あらすじ>
ケンブリッジ大学セント・アガサ・カレッジに伝記文学の講座が開設され、初代教授にレオ・マヴェラック博士が任命された。
そして、学寮付き保健師イモージェン・クワイの下宿人である貧乏学生フラン・ブリャンが、博士論文の指導教官マヴェラックのゴーストライターとして、数学者ギデオン・サマーフィールドの学術的伝記を書くことになった。
サマーフィールドは、かつてセント・アガサの一員だった。殆ど取るに足りない学者だったが、ひとつだけ輝かしい業績を残したと言う。
しかし、最初にその伝記を依頼されたイアン・ゴリアードは途中で挫折した。伝記作家メイ・スワンは失踪した。その後継者マーク・ゼファーは急死し、仕事を完遂できなかった。そしてサマーフィールドの生涯には、1978年の夏に謎の空白があった。フランの前任者3人ともこの休暇旅行の調査段階で頓挫していた。このプロジェクトは次から次へと災難が続いていた。
不安に駆られたイモージェンは、フランの執筆を助けるべく、独自調査に乗り出すが・・・

<感想>
主人公と友人の会話がとても楽しい。プロットや伏線も巧妙だ。
いかにもケンブリッジらしい犯罪を描いており、数学者の伝記執筆をめぐる謎と騒動、学生の不正問題、パッチワークキルトにまつわる話、金銭で買える最高の贅沢は余暇だと気がついたイモージェンの生活様式などが相まって、とても面白い英国ミステリだと思う。
本シリーズは4作発表されているそうだ。3作目『Debts of Dishonour』と4作目『The Bad Quarto』が楽しみだな。
満足度 5.gif


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『アガサ・レーズンとけむたい花嫁』  『クリスマスカードに悪意を添えて』
   

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posted by ももた at 08:58| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月24日

犬の消えた日

井上こみち 著
装画・挿絵 頓田室子

<あらすじ>
1942年(昭和17年)1月、もう直ぐ9歳の松倉さよ子が可愛がっていたシェパードの兄弟犬、アルフとフリッツが軍用犬として戦地に行くことになった。
アルフとフリッツはこの日のために、まだ小犬のうちに軍用犬の適性検査を受け、合格して軍籍を持った。6か月間の厳しい軍事教練も受けた。出征の日には、日本軍の犬として相応しい称号を国から与えられた。飼い主として誇りだが、別れは辛かった。
2か月後、さよ子は軍用犬に適さない柴犬を飼い始めた。東亜と名付け可愛がっていたが、供出命令が出て愛犬を奪われる・・・

<感想>
本書は実話をもとにした小説である。当時犬を飼いたい家は、役所に犬税を納め、狂犬病予防接種をして、警察に登録すれば飼える。軍用犬を飼っていることは名誉だった。
しかし、戦争は少女の大切なものや人を次々と奪っていく。思い出になる物もみんな空襲で焼けてしまった。
供出や献納で集められた犬は、兵士の防寒具にするため翌日には殺されたそうだ。飼い主の計らいで供出や献納から逃れた犬は、遠い土地に捨てられ野犬の群れになった。
軍用犬も戦後は大陸に置き去りにされるか殺処分された。復員船にも引き揚げ船にも乗せてもらえなかった。酷い話だな。戦争の惨さが伝わる良書だと思う。
満足度 5.gif


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水野宗徳『さよなら、アルマ』 久能靖『川上犬物語』
   

戸川幸夫『のら犬物語』 田中豊美『牙王物語』
   

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posted by ももた at 08:43| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月21日

誘拐犯

ケイト・リンヴィル・シリーズ A
シャルロッテ・リンク 著
浅井晶子 訳 「DIE SUCHE」

<あらすじ>
列車に乗り遅れた14歳の少女ハナ・キャスウェルは、少女たちの憧れである19歳の青年ケヴィン・ベントに車で、父ライアンが待つスカボロー駅まで送ってもらった。その直後、ハナは親友のシェイラにこの出来事を報告した。
ところが、ビル清掃会社で働いているライアンが迎えに来たとき、ハナは消えていた。シェイラから話を聞いたライアンは、警察に通報した。
4年後、ロンドン警視庁のケイト・リンヴィル刑事は、スカボロー郊外の町スカルビーにある、父の惨殺現場となった生家の処分を決め、デボラ・ゴールズビーが営むB&Bに泊まった。
一方、スカボロー青少年局のキャロル・ジョーンズは、家庭に問題のある14歳の少女マンディ・アラードの安否を懸念していた。
同じ頃、10か月前に失踪したスカボロー出身の当時14歳の少女、サスキア・モリスの遺体がムーアで発見された。
そうした中、デボラの14歳の娘アメリーが行方不明になった。ゴールズビー夫妻とケイトは警察署へ行き、アメリーの失踪届を提出した。
その後、アメリーの持ち物がムーアで発見された。捜査責任者であるケイレブ・ヘイル警部とケイトは、事件について話し合う。
ケイトはまたしても管轄外の事件に巻き込まれていく・・・

<感想>
誘拐監禁事件をメインに、自己評価の低い42歳の孤独な女性ケイトの葛藤、思春期の少女の愚行、その家族の問題などを描き、面白く読ませる。
そして事件は一筋縄ではいかない複雑な様相を見せ、衝撃的な真相と真犯人に辿り着く。凄く面白いミステリだと思う。
本シリーズは、4作まで発表されているそうだ。続編が楽しみでならない。
満足度 4.gif

   

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『裏切り』  カルメン・モラ『花嫁殺し』
  

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posted by ももた at 09:13| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。