2023年09月29日

神の手

木部美智子シリーズ @
望月諒子 著

<あらすじ>
売れっ子作家・本郷素子が、純文学作家の登竜門として有名な文学賞を受賞した。
そして文芸誌編集長・三村幸造が、広瀬と名乗る神戸の医師の電話を受ける。その後、広瀬医師の患者だという高岡真紀が原稿を送ってきた。
その原稿は、膨大な量の作品を残して3年前に失踪した作家志望の女性・来生恭子が書いた短編だった。
そして本郷素子には、3か月前から無言電話が続いていた。
一方、37歳のフリージャーナリスト・木部美智子は、神戸の連続幼児誘拐事件の追跡取材をしていた。
3人の幼児は無傷で帰ってきたが、4人目の男児・野原悠太の行方は3年経った今も不明のままだった。容疑者の高田治信は、野原悠太については否認している。美智子は、主婦の目撃情報が気掛かりの種になっていた。
そんなとき美智子は、かつての同僚・高岡真紀と5年ぶりに会う。そして出版業界内の途轍もないスキャンダルに関わって行く・・・

<感想>
主人公の木部美智子は、混迷して出口が無くなって行く中、論理的な答えを求めて奔走する。作家志望の女性の失踪と盗作疑惑に連続幼児誘拐事件。一見無関係と思える出来事が見事に繋がって行く。
読者を惹きつける巧妙な展開になっており、一気に読ませる。
そして衝撃的な真相に凍りつく。
心の中に怪物を飼っている女に魅入られた男たちを描いた、凄く面白い長編ミステリだと思う。
満足度 5.gif


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クリス・ハマー『渇きの地』 サラ・ぺナー『薬屋の秘密』
   

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posted by ももた at 08:44| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月26日

カムイの大地 北海道と松浦武四郎

泉田もと 著
装画 岩本ゼロゴ
挿絵 磯村仁穂

<内容>
冒険家、探検家、地誌学者、作家、出版者など、様々な顔を持つ幕末の偉人・松浦武四郎の半生を、史実を元に描くフィクション。

1818年に伊勢國須川村(現三重県松阪市小野江町)で生まれた松浦武四郎は、16歳のとき江戸へひとり旅したのをきっかけに諸国を巡り、現地で見聞きしたことを細かく記録した。
また、訪れた土地の地名、地形、行程、距離、歴史を調べ、人口、風俗、伝承の聞き取りなど、様々な調査を行い、多くの資料を残した。
28歳のときには、当時まだ人々にあまり知られていない蝦夷地(現在の北海道)へ赴き、約13年間に計6回の調査を行なった。
そして51歳のとき、明治新政府から蝦夷地開拓判官に任命された。蝦夷地に代わる名称を依頼された武四郎は、6つの候補の中から「北加伊道」を選んだ。
「加伊」はアイヌの人々がお互いを呼び合う「カイノー」が由来で、「北加伊道」は「北の大地に住む人の国」という意味であり、武四郎のアイヌ民族への思いが込められた名称だった。明治新政府は「加伊」を「海」に改め、現在の「北海道」と決定した。また北海道の地名も、武四郎が蝦夷地を調査しているときにアイヌ民族の人々から教えてもらった地名が由来となっている。
晩年は骨董品収集を趣味とし、1888年2月10日、東京の神田五軒町にある自宅で脳溢血のため71歳で死去。

<感想>
松浦武四郎は、未開の地といわれた蝦夷地だけでなく、樺太の探索もしている。幕末の動乱と蝦夷地の経済、アイヌの人々の衣食住と文化、アイヌへの謂れのない差別や厳しい搾取など、勉強になった。
アイヌの人たちが親しみと尊敬を込めて「ニシパ(男性に対する敬称)」と呼ぶ、松浦武四郎の探索と冒険を描いた面白い児童書だと思う。
満足度 3.gif


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河治和香『がいなもん 松浦武四郎一代』井上こみち『氷の海を追ってきたクロ』
posted by ももた at 08:49| 東京 ☁| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月22日

特殊清掃人

中山七里 著

<あらすじ>
特殊清掃とは、ゴミ屋敷や死体の発見された部屋など、事故物件のハウスクリーニングを指す。
五百旗頭亘が代表を務める「エンドクリーナー」は、ハウスクリーニングのみならず、供養・遺品整理・家具の買い取り・リフォーム・物件買い取りまで請け負っている。
ある日、大田区池上のワンルーム6畳の特殊清掃を依頼された。五百旗頭と入社したばかりの秋廣香澄が見積りに赴くと、築20年は経っていそうなアパートの大家が待ち構えていた。対象物件は警察が事件性なしと判断しており、入居当初は輸入車ディーラーに勤めていたという30代の女性・関口麻里奈が孤独死した部屋だった。
麻里奈の母親がハウスクリーニングの費用を払うことになり、翌日、事務所にやってきた。死臭を嗅ぎ慣れている香澄は、一卵性母娘と言われるくらい仲が良かったと話す母親に違和感を抱く。そして五百旗頭は、床材に記された恨み言を見つけた。
そこで香澄は、麻里奈の怨嗟を晴らすために動き出す。すると瑕疵の下に別の瑕疵が隠れていた・・・

<感想>
代表1人従業員2人のエンドクリーナーが請け負うのは4件。
2話目は、ベンチャー企業の社長が事故死した中古マンションの買い取り。元刑事の五百旗頭が警察の判断を覆す。
3話目は、この仕事に2年従事している白井寛の単独作業で、電気を止められて熱中症で死んだホストのアパートの原状回復と遺品整理。ホストはかつてのバンド仲間で、盗作疑惑が浮上する。
4話目は、豪邸に住んでいた独居老人の孤独死。五百旗頭が3通の遺言状の謎を解き明かしていく。
事故物件業者の仕事、特殊清掃の依頼人と遺族の諸事情、遺体が放置されたままの部屋の凄絶な惨状などが相まって、とても面白い短編ミステリだと思う。
満足度 3.gif


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posted by ももた at 09:04| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。