2023年07月21日

円周率の日に先生は死んだ

ヘザー・ヤング 著
不二淑子 訳 「The Distant Dead」
カバーイラスト いとうあつき

<あらすじ>
3月14日の早朝、12歳の少年サル・プレンティスが、黒焦げの焼死体を発見した。
その日、サルがバス通学する中学校では、元ネヴァダ大学教授という経歴を持つ新任の数学教師アダム・マークルが姿を見せなかった。
同僚の社会科教師ノラ・ウィートンは、3月14日が円周率の日だと思い出す。アダムはこの日、パイを焼いてきてパーティーをする心算だと話していた。
その翌日、ワタリー保安官が学校に来て、焼死体の身元はアダムだと教師たちに伝えた。
その4時間後ノラは、サルの伯父ギディオンがアダムの家から出てきて、トラックで走り去るのを目撃する。
そして、サルの案内で最初に現場に駆け付けた消防団のボランティア隊員ジェイク・サンチェスは、サルが学校用のリュックサックを背負っていなかったことに気づき、訝しむ。
サルはアダムのお気に入りの生徒だった。彼が担当するチェスクラブの唯一の部員で、ほぼ毎日、アダムと一緒に昼食を食べていたが、偶然見つけたと言ったきり、口を閉ざしていた。
小さな町は50年ぶりに発生した殺人事件に騒然とする。
捜査が難航する中、友人と呼べるのはカフェの店長ブリッタとアダムだけだったノラは、焼死事件の真相解明に乗り出す・・・

<感想>
物語の舞台は、米国ネヴァダ州の閉鎖的な町ラヴロックと、丘の小さな谷間にうずくまるマルゼンという集落。
母親がヘロインの過剰摂取で死んだ後、伯父たちと山で暮らすようになった少年サル。全額支給奨学金でネヴァダ大学卒業後、ガードレールにトラックを激突させて自慢の息子を即死させてしまった父親の面倒を見るためラヴロックへ戻り、不本意な人生を送る30代バツイチのノラ。マルゼンで生まれ育ち、35歳になっても母親と暮らす鉱山の運搬トラック運転手で、子供の頃からサルの母親に惚れていたジェイク・サンチェス。この3人の視点で事件の背景を描き、真相に迫って行く。
想定外の苦々しい結末だが、数学とチェスとファーストピープルの話、ドラッグビジネス、土地に縛られている無法者の一族、そして貧困と負の連鎖に経済的な地域格差など、アメリカの社会問題が相まって、読み応えのあるミステリだと思う。
しかしそれ故に、現実逃避する人々やドラッグの蔓延と貧困の風景に気が滅入る長編小説でもあったな。
満足度 3.gif


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ジョン・ハート『帰らざる故郷』 S・J・ローザン『その罪は描けない』
   

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posted by ももた at 08:50| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月18日

三年間の陥穽

グレーンス警部&スンドクヴィスト警部補・シリーズ I
(『三秒間の死角』の続編第4弾/グレーンス&ホフマン・シリーズD)
アンデシュ・ルースルンド 著
清水由貴子/下倉亮一 訳 「SOVSAGOTT」

<あらすじ>
定年の年を迎えたストックホルム市警のグレーンス警部は、亡き妻アンニの墓参りに行き、3年前に4歳の愛娘を失くしたと言う女性と出会う。
彼女は寂れた汚い駐車場で車のドアを開けっ放しにして、すぐそばのパーキングメーターまで行った。その僅か7秒の間に、助手席のチャイルドシートに座っていた娘が何者かに連れ去られた。手がかりひとつ得られず、生死不明のまま、彼女は半年前に娘の死亡宣告の手続きをした。
オフィスに戻ったグレーンス警部は、当時の捜査記録ファイルを探し出し、捜査責任者だった同僚エリーサ・クエスタと話すうち、同じ日に消えて未だに発見されていない、もうひとりの4歳の少女誘拐事件があったことを知る。
グレーンス警部は少女誘拐事件の捜査をするため、その少女リニーヤの両親に死亡宣告申請を延期するよう頼む。
しかし、リニーヤの見せかけの埋葬は行われた。犯罪捜査部部長のエリック・ウィルソンが本件の捜査終了を明言し、グレーンス警部は12週間の休暇を命じられるが、非公式に捜査を続行する。
そうした中、インターネット上での子供の人身売買を防止するための団体に、全裸で犬のリードを巻かれた少女の写真が送られてきた。
やがてダークネットに潜んでいる10億ドル規模の市場、世界8ヶ国21人にのぼる小児性愛サークルが浮上する。
リニーヤの足取りを追うグレーンス警部は、ピート・ホフマンに潜入捜査を頼み、小児性愛サークルを壊滅させるべく奔走するが・・・

<感想>
時は2020年、グレーンス警部が対峙するのは狡知に長けた小児性愛者。喪失感と孤独を抱えた男は、捜査のためなら時に決まった手順を避け、半ば強引に、あらゆる人脈を駆使して、過労死まっしぐらに突き進む。私生活が無くて衝突も厭わない彼の行く手を阻むことは誰もできない。
そんなグレーンス警部の奮闘を描いており、若きITの天才ビリーとデンマーク国家捜査局のIT専門家ビエテの活躍、ピート・ホフマンの危険な潜入捜査などが相まって、凄く面白い北欧ミステリだと思う。
しかし、一件落着後の真相に啞然とする。騙し討ちに遭った気がして不快感が残ったな。
満足度 3.gif

   

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『特捜部Q―カールの罪状』  マイクル・コナリー『正義の弧』
 

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posted by ももた at 09:00| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月12日

アガサ・レーズンと毒入りジャム

英国ちいさな村の謎・シリーズ R
M・C・ビートン 著
羽田詩津子 訳 「Agatha Raisin and a Spoonful of Poison」
カバーイラスト 浦本典子

<あらすじ>
観光ルートから外れている風変わりで閉鎖的なコンフリー・マグナ村のチャンス牧師が、アガサに村祭りの広報をして欲しいと言ってきた。
アガサは断る心算だったが、スタッフのハンサムな男性ジョージ・セルビーに心を奪われ、俄然やる気になり、全力で村祭りの企画を立てる。
自慢の人脈を駆使して地元紙と全国紙の記者を呼び、人気ポップシンガーを招いた。お陰で多くの観客を集め、村祭りはかつてない賑わいを見せる。
ところが、イベントの目玉である自家製ジャムコンテストの最中に事件が発生する。ジャムを試食した客が次々と異常行動を取り始め、年配の女性2人が亡くなった。テイスティングに出されていたジャムに、LSDが仕込まれていたのだ。イベント会場には郡の警察官全員が動員され、マスコミも押し寄せて大騒動になる。ニュース報道でアガサの災難を知ったサー・チャールズ・フレイスも、現地に向かう。
アガサはチャンス牧師の依頼を受け、事務所の新米探偵トニ・ギルモアと共に捜査に乗り出すが・・・

<感想>
本書は2008年に出版された作品とのこと。
18歳の新米探偵トニ・ギルモアの活躍、50代のアガサの嫉妬や災難などを描き、面白く読ませる。
そしてアガサは、感情に動かされるままに生きてきたことを、やっと自覚する。
しかし一件落着後、アガサはまたしてもイケメンのフランス人男性に目が眩んでいる。懲りない女性だな。
次作『There Goes the Bride』のアガサは、イスタンブールに向かうらしい。また本シリーズは、作者の死後もロッド・W・グリーンによって書き継がれていて、33巻目『Devil’s Delight』が出版されているそうだ。凄いな。
満足度 3.gif


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『卒業生には向かない真実』  『木曜殺人クラブ 逸れた銃弾』
   

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posted by ももた at 09:09| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。