キャサリン・アーデン 著
金原瑞人/野沢佳織 訳 「THE BEAR AND THE NIGHTINGALE」
カバーイラスト 海島千本
<あらすじ>
14世紀半ば、ルーシ北部の小さな村レスナーヤ・ゼムリャ。
領主の妻マリーナは、金袋(カリタ)と仇名されたモスクワ大公イワン1世の、不思議な妃の唯ひとりの子だった。1年が終わろうとする11月のある日、マリーナは4人の子供たちを年老いた乳母ドゥーニャに託し、末娘ワシリーサ(ワーシャ)を出産して死んだ。
姉のオリガは普通の娘で美しく従順だが、ワーシャは祖母の血筋を受け継ぎ、人には見えない精霊(チョルト)を見る特別な力を持っていた。6歳のとき、雪の降る森で道に迷い、霜の王にして冬の王でもあるマロ―スカとその双子の弟メドベードに出会う。
その後、領主ピョートル・ウラジーミロヴィチは、長男ニコライ(コーリャ)と次男アレクサンドル(サーシャ)を連れてモスクワへ旅立ち、新しい妻アンナ・イワノヴナを連れて戻った。
アンナはモスクワ大公(マリーナの腹違いの兄)の娘で、人には見えない精霊を見て悪魔と呼び、いつも怯えていた。
その年の秋、コーリャが近隣の貴族の娘と結婚して家を出た。その後、若きセルプホフ公(ウラジミール・アンドレーエヴィチ)が村を訪れ、14歳のオリガと婚礼を挙げてモスクワへ連れ帰った。サーシャは、モスクワ大公の幼い跡継ぎ王子ドミトリーを守るため、父親の反対を押し切ってこの旅に同行し、修道士セルギイの修道院に入った。そして、ピョートルとアンナの間に娘イリーナが誕生した。
日が流れ、季節も流れ、ワーシャは成長し、継母アンナを避けて7年近くの歳月が平穏に過ぎた。ワーシャは用心することを学び、あらゆる精霊と密かに親しくしていた。
ワーシャが14歳になった年、モスクワ大公国の摂政であるアレクセイ府主教は、ドミトリー王子の即位を計画する。若き司祭コンスタンチン・ニコノヴィチは大変な美貌の持ち主で、彼の描く聖画のイコンは人々を惹きつけていた。府主教は、王子の公位継承を妨げる恐れのある司祭を、僻地レスナーヤ・ゼムリャへ厄介払いする。
夏の盛りに村に到着した司祭は、悪魔を怖れるアンナの告白を聞き、村人たちの精霊信仰を厳しく禁じた。
村人たちが古いしきたりを疎かにして捧げ物を止めたため、人々を悪しきものから守っていた精霊たちの力も弱くなって行き、「食らうもの」が目覚めた。精霊たちの警告や予言は謎めいていて、ワーシャには解らなかった。
しかし冬至の頃、冬の王がワーシャを迎えに来る。娘を愛しているピョートルは、その前にワーシャを裕福な男に嫁がせようとするが、跳ねっ返りの娘は婚約者を怖気づかせて追い返してしまう。
一方、アレクサンドル修道士となったサーシャは、「タタールのくびき」から逃れるべく画策していた。ドミトリー大公がキプチャク・ハン国と戦うと決断したとき協力するよう、キリスト教徒の一族である父に使者を送るが、タタール人の包囲を恐れるピョートルは断った。
やがて厳しい冬が到来、寒さと闇の魔物が村を襲う。ワーシャはすぐ上の兄アリョーシャ(リョーシカ)に助けてもらい、魔物と戦うが・・・
<感想>
自由に自分らしく生きようとする少女の成長と奮闘を描いており、湖や森の精、家や庭の精などのキャラクターがユニークだ。
厳しい風土と農場の生活、女性軽視と偏見、恐怖で人を支配するキリスト教神父、土地に根付いている精霊信仰、当時の歴史などが相まって、凄く面白い長編ファンタジーだと思う。
そして、主人公よりもその父親が凄くカッコイイ。ピョートルは、息子を束縛しないし、進路の邪魔もしない。領主としての責務や家長の役割を重視して、彼らの保護と安全を計る。その姿勢は頑としてブレない。子供たちと魔物の間に立ちはだかり、「領地から出ていけ。」「男は自分以外の者の命を身代わりに差し出したりしない。我が子の命なら尚更だ。」と言い放つ。魔物に挑むピョートルの勇気と大きな父性愛に感動した。変わり者と陰口を叩かれても、兄妹仲が良いのも好いな。
また、舞台となるのはロシア発祥の地とされる地域。最近、ウクライナ関連の本を読み漁っているので、「タタールのくびき」や「ルーシの洗礼」など、勉強になった。続編が楽しみでならない。
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