2022年10月31日

マーロー殺人クラブ

マーロー殺人クラブ・シリーズ @
ロバート・ソログッド 著
高山洋子 訳 「The Marlow Murder Club」
装画 北住ユキ

<あらすじ>
英国はイングランドの中南東部バッキンガムシャー州にある、古い家並みが美しい小さな町マーロー。
77歳のジュディス・ポッツは、テムズ川に面している敷地に建つ古い煉瓦作りの一軒家で、自由気儘なひとり暮らしを楽しんでいる。退屈しのぎにクロスワード・パズルを作って収入を得ており、庭の隅にあるボートハウスから直接テムズ川に入り、宵闇に紛れて全裸で泳ぐのを日課としていた。
真夏のある夜、ジュディスがテムズ川で泳いでいると、地元の美術商ステファン・ダンウッディの家から男の叫び声が聞こえた。その直後、鋭い銃声を耳にする。ジュディスの通報により、パトカーが来るも警察官はろくに調べもせずに走り去った。
翌日、不審に思ったジュディスはステファンの地所へ行き、額に銃弾の穴がある死体を発見する。誰かがステファンを殺したと事件担当のタニカ・マリク巡査部長に訴えるが、彼女は想像力に欠けている典型的な首席タイプの女性だった。自分の考えを否定されたジュディスは素人探偵に乗り出す。
そうした中、ひとり暮らしのタクシー運転手イクバル・カサムが射殺された。イクバルとステファンの死には類似点があった。そして、第3の殺人が起きる可能性もあった。タニカは、ジュディスの言い分が正しいのではないかと思い始める。
やがて、犬の散歩代行者スージー・ハリスと司祭夫人ベックス・スターリングがジュディスの仲間になり、「マーロー殺人クラブ」が誕生する。彼女たちは互いの得意分野を生かし、知恵を出し合って、連続殺人事件の真相を暴いていく・・・

<感想>
濃い灰色のケープを羽織って自転車で走り回る、背が低くて小太りなジュディス・ポッツは、町では変わり者として噂の種になっている貴族風の老婦人。向こう見ずな性格のスージー・ハリスは、がっしりした体格の中年女性。地元の不動産に興味があって、フィットネス運動やヨガもやってきたベックス・スターリングは完璧な主婦。この3人組の活躍を描いた、凄く面白いコージーミステリだと思う。
アガサ・レーズンやワニ町シリーズ開幕時と同じ衝撃を受けたな。
2作目『Death Comes to Marlow』が楽しみでならない。
満足度 4.gif



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posted by ももた at 08:56| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月27日

われら闇より天を見る

英国推理作家協会賞最優秀長篇賞受賞
クリス・ウィタカー 著
鈴木恵 訳 「WE BEGIN AT THE END」
装画 agoera

<あらすじ>
アメリカ、カリフォルニア州の小さな海辺の町ケープ・ヘイヴン。30年前、当時15歳の少年ヴィンセントが、幼い少女シシーを誤って殺してしまった事件は、町に暗い影を落としていた。
心を痛めていたシシーの母マギーは、子供が大人の判決を受けるのを見て打ちのめされ、自宅で自殺した。
その遺体を発見したのは、シシーの姉スターだった。当時ヴィンセントの恋人だったスターは、この傷ましい事件から未だに立ち直れず、アルコールと薬物を過剰に摂取し、子供たちの面倒を見ることができない。
彼女の13歳の娘ダッチェスが母親の行動に目を配り、もうじき6歳になる弟ロビンの面倒も見ていた。
そして、町の警察署長ウォークことウォーカーは、ずっとスターと子供たちを見守ってきた。兄弟同然のヴィンセントが逮捕されるに至った自分の証言を未だに悔いていた。恋人マーサと別れ、変化を拒絶するようになり、新たな土地開発や建設計画が出るたびに反対していた。
そうした中、刑期を終えたヴィンセントが町に戻って来た。曾祖父が建てた廃屋寸前の家にいると、不動産業者のダークが現れて家を売るよう迫る。絶景を望む海辺の土地の再開発に、ヴィンセントの家が邪魔なのだ。
ダークは、同じエリアの貸家に住む母子家庭のディーにも、法律を盾にして立ち退きを迫っていた。
一方ダッチェスは、ヴィンセント出所から3日目の真夜中に、顔面を殴打されて玄関先に倒れている母を発見する。スターの雇用主で家主でもあるダークの仕業と思い込み、彼のクラブに放火してしまう。
その後、スターが自宅で銃殺された。州警察は、現場にいたヴィンセントを逮捕する。モンタナ州で農場を営むスターの父ハルが、会ったこともない孫ダッチェスとロビンを引き取った。そして、死刑裁判にかけられるヴィンセントは、弁護士としてマーサを指名した。
捜査から外されたウォークは、マーサと共に事件の真相を追うが・・・

<感想>
一晩の過ちが人生に重くのしかかる。幼い少女の死は遺族だけではなく、加害者とその家族、関係者まで巻き込み、地域社会に何らかの影響を及ぼす。早く大人になれと急かされる子供は不憫だな。
物語は悲劇に善意や贖罪、経済的不況と地元民の思惑、ダークの問題などを絡ませ、複雑な様相を見せる。年配の脇役たちの存在感が凄い。
逆境にもめげず懸命に生きている自称無法者の少女と、過去に囚われたまま生きている大人たちを描いており、ハルとスターが断絶した理由、15歳の恋と父性愛、モンタナの自然と癒し、祖父と孫の農場生活などが相まって、感動的な長編ミステリだと思う。
満足度 5.gif



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posted by ももた at 09:49| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月25日

その少年は語れない

ベン・H・ウィンタース 著
上野元美 訳 「THE QUIET BOY」

<あらすじ>
2008年、ウェスリー・キーナー少年が、学校でベンチの角に額をぶつけて勢いよく地面に倒れた。意識不明の少年は病院に運ばれ、脳の緊急手術を受けた後、感情表現を行うことができなくなった。
その情報を逸早く掴んだ弁護士ジェイ・シェンクは、少年の両親ベスとリッチを説得し、病院に対して医療過誤の賠償請求訴訟を起こした。
このとき、シェンクのひとり息子ルーベン(ラビ)は14歳、ウェスリーと同じく高校1年生だった。
11年後、リッチが脳科学者テリーザ・ピレッジを殺害した。家族を長い裁判に巻き込みたくなかったリッチは、官選弁護人を解雇した。
そこでベスは、キーナー家に関わったことのあるシェンクに弁護を依頼する。
民事専門のシェンクは、かつてミステリ小説にどっぷり嵌まり込んでいたルーベンを、この案件に引き込むが・・・

<感想>
過去の医療訴訟と現在の殺人事件を交互に描きつつ、血の繋がりのないシェンク父子、人の形をした肉体を持つ生き物になってしまった少年の両親と妹を描いており、面白く読ませる。
しかし眠らない、食べない、排泄しない、成長しない少年が、なぜ10年以上も歩き続けることができるのか、理解できない。
二重構造の人格や別の世界とか啓示、ビーチサンダルを履いたブギーマンが出た時点で、普通のリーガル・ミステリとは別物と気付き、苦手意識が働いて楽しめなくなった。
そして、作者の仕掛けに翻弄され、意外な真相が明らかになっても感心できない。
徒労感しか残らなかったな。
満足度 2.gif



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posted by ももた at 08:58| 東京 ☔| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。