2022年09月22日

亜鉛の少年たち アフガン帰還兵の証言(増補版)

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 著
奈倉有里 訳

<内容>
1979年12月、ソ連政府はアフガニスタンへの軍事派遣を決め、若者たちを戦場に送り出した。やがて彼らは亜鉛の棺に納められ、人知れず家族のもとへ帰ってきた。生きて戻った者は、癒しがたい傷を負い、鉛のような心を抱えて苦しんでいた。
この戦争は1989年まで、9年1ヶ月と12日続いた。

「プロローグ」「手帳から(戦地にて)」「1日目「多くの者が私の名を名乗って現れ…」」「2日目「ある者は心を苦しめて死に…」」「3日目「口寄せや呪い師のもとに赴いてはならない…」」「POST MORTEM」「『亜鉛の少年たち』裁判の記録」「訳者解説 母と子の接点を探して」

<感想>
「プロローグ」は、特殊部隊にいた息子がアフガニスタンから帰国後、料理用の鉈で人を殺してしまったと嘆く母親の話。逞しくなって欲しくて自ら息子を戦地に送り込んだこの母親に、あまり同情はできないな。
そしてアフガン帰りの若者たちは、被災地(1988年12月、アルメニア地震)でも火事場泥棒をしていた。ロシア軍はウクライナでも同じことをしている。医療品や装備、消耗品から食糧まで現地調達、戦利品や略奪行為はこの国の伝統なのかな。
「プロローグ」の後は狙撃兵や衛生兵、追撃砲兵、工兵、分隊長、戦闘車砲手、戦車兵、通訳兵、通信兵、偵察兵、特殊部隊戦闘員等々、国際友好戦士と呼ばれた彼らの生々しい戦争体験談と、悲嘆に暮れる戦死者遺族の話が延々と続く。
結婚相手を探しに戦争に行ったと言う女性の証言に驚いた。遺体の損傷が酷いので亜鉛の棺だった。毎日誰かが死んでいく戦場の生活、パルチザン戦、手足を失った帰還兵の暮らしぶり、彼らの懊悩や葛藤など、読み応えがあった。
ソ連では世代ごと(大祖国戦争、フィンランド戦争、アフガニスタン戦争)に戦争が起きていて、この戦争はブレジネフの愚策、政治的過失と言われているそうだ。
戦争に負けて1991年にソ連邦は崩壊したが、その継承国(対外債務を含む権利と義務を継承)であるロシアは、2022年2月にウクライナへ軍事侵攻した。この国には町を破壊され多大な犠牲者を出した第二次世界大戦(独ソ戦)の教訓は無いのかな。
そして、本作発表後に巻き起こった裁判の顚末などを大幅に増補しており、とても興味深く考えさせられた。一読の価値がある本だと思う。
満足度 5.gif



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ロドリク・ブレースウェート
『アフガン侵攻1979−89 ソ連の軍事介入と撤退』


中村哲『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』



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posted by ももた at 08:45| 東京 ☁| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月20日

ウクライナ日記 国民的作家が綴った祖国激動の155日

アンドレイ・クルコフ 著
吉岡ゆき 訳 「Ukrainisches Tagebuch」 

<内容>
ウクライナの首都キエフで妻とティーンエイジの子供3人と暮らす、世界的なベストセラー小説『ペンギンの憂鬱』の著者であるアンドレイ・クルコフが、2013年に起きたマイダン(独立広場)革命、大統領の国外逃亡、ロシアのクリミア半島併合、続く内乱など、未だに収束していない歴史的うねりの渦中に身を置き、その激動の日々を一市民の視点から書き留めたドキュメント。

「ウクライナ情勢入門 池上彰 /ウクライナの歴史/クリミアとは何か/ウクライナの東部と西部/エネルギー問題の視点から」
「日本語版序文(あるいはあとがき)アンドレイ・クルコフ」
「ウクライナ日記 2013年11月21日〜2014年4月24日 (前書き/日記)」
「訳者あとがき」

<感想>
レニングラード州で生まれたアンドレイ・クルコフは、民族的にはロシア人だが、今はウクライナ国民。ウクライナはヨーロッパの一員になるべきだと考えているそうだ。
ウクライナが抱えるロシアとの複雑な歴史、スターリン時代の大飢饉ホロドモール、政治と警察の腐敗、愛国者と分離主義者の対立、ユーロマイダンへの弾圧と狙撃や暴行事件、オレンジ革命とマイダン革命、ロシアのクリミア併合作戦とロシア化施策、クリミア・タタール人の強制移住、ロシアの指示を受けている親ロシア派分離主義武装勢力と東部(ドネツク州とルハンスク州)の内乱、ロシアの脅迫と挑発に嫌がらせ、ウクライナの領土保全をめぐる闘い等々、勉強になった。
池上彰氏の「ウクライナ情勢入門」よりも、本文中の「訳注」や「訳者あとがき」の方が分かり易いな。
そして、ソ連邦の構成国だった国々がロシアを嫌い、警戒する理由も理解できた。
2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻の根源を伝える良書だと思う。
満足度 5.gif



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『ペンギンの憂鬱』  松岡圭祐『ウクライナにいたら戦争が始まった』
   


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posted by ももた at 10:14| 東京 ☔| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月16日

とむらい家族旅行

サマンサ・ダウニング 著
唐木田みゆき 訳 「He Started It」
カバーイラスト QUESTION No.6

<あらすじ>
モーガン兄妹の母方の祖父が、莫大な遺産と奇妙な遺言を残して亡くなった。
その遺言とは、20年前、ベスが12歳のとき、祖父と孫たちだけで行ったアメリカ横断ドライブ旅行と同じルートを辿り、終着点の砂漠に遺灰を撒けば、兄妹は莫大な遺産を平等に貰えるのだ。
彼らの過去の旅は、危険な秘密を孕んだものだったが、ベスの6歳年下の妹ポーシャは、この遺産で学資ローンを返済できる。そしてベスには、遺産を貰うだけでなく、他の目的があった。本来は兄妹だけですべきことだが、結婚している2歳違いの兄エディーが妻クリスタを連れて来たので、ベスも夫フェリックスを連れて来た。
こうして滅多に会わず、ろくに信頼もしていない兄妹とその配偶者たちは、弁護士が用意したGPS搭載のレンタカーで旅立つが・・・

<感想>
訪れる州は16州、一風変わった観光名所に立ち寄る20年前のアメリカ横断ドライブ旅行と、現在の完全再現ドライブ旅行を交互に描き、ロード・ミステリとしても楽しめる。
祖父の目論見、妨害工作、兄妹の両親と少女失踪事件など、謎めいた展開になっており、最後まで読者を惹きつける。
巧妙なトリックと狂気、どんでん返しの連続に衝撃的なラストが相まって、凄く面白いサスペンス小説だと思う。
満足度 4.gif



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『殺人記念日』   M・W・クレイヴン『キュレーターの殺人』
   

『殺しへのライン』 クリス・ウィタカー『われら闇より天を見る』
   


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posted by ももた at 09:00| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。