2022年08月17日

九頭竜川

鮎釣り漁師・愛子の希望
第11回新田次郎文学賞
大島昌宏 著

<あらすじ>
昭和20年7月19日、坂井郡丸岡町で暮らす女学校1年生の庄田愛子は、福井市内で営まれた親戚の通夜に祖父・源造、祖母と母の一家4人で出掛け、その帰途空襲に遭遇した。福井市はこの夜の空襲で、市街地の95%が焼き尽くされた。
昭和23年6月28日月曜日、福井地震が発生した。このとき鮎漁師である祖父と、前年シベリアから復員してきた父・勇作は、九頭竜川の流れの中にいた。川底の地盤に深い亀裂が生じ、勇作の体を強い力で吞み込んだ。そして祖母と母は、丸岡町の自宅でこの巨大地震の直撃を受けた。家が崩壊し、2人の体を圧し潰した。県立高校の1年生になっていた愛子は、幸運にも映画館の2階席にいたお陰で命拾いした。福井市はこの震災によって再び市の80%を破壊され、焼き払われた。
そして地震発生以来、1カ月以上も余震が続き、7月23日朝から降り始めた梅雨末期の豪雨は3日間止むことがなく、九頭竜川は再び猛々しい暴れ竜となった。堤防を乗り越え、突き崩し、泥流が福井市北部とその近郊になだれ込み、甚大な被害をもたらした。
大震災から2年を経た昭和25年、福井市は都市再建への途を歩き始めていた。
一方、源造と愛子は水害の後、九頭竜川の南岸に沿った小高い丘の町へ転居し、肩を寄せ合ってひっそりと暮らしていた。連れ合いと後継ぎを一挙に失った源造は、体と心の衰えを自覚し、あと1年経って60歳になったら、鮎漁師をやめようと決めていた。
ところが、高校最後の年を迎えた愛子は、両親が欠けているという家庭環境が重大なネックとなり、就職試験に落ち続けた。
そこで愛子は家業を継ぎ、九頭竜川初の女漁師として自ら人生を切り拓いていく・・・

<感想>
福井の自然に魅了された。鮎の生態と習性、鮎の釣法、技法の伝承、河川漁師の暮らしなど、とても面白く、勉強になった。
また、若い主人公は、僅か3年の間に空襲、地震、水害と痛めつけられ、愛する家族を亡くし、思い描いていた将来を閉ざされても、その境遇を恨むことなく、女性の弱点や因習、恐怖さえもはね返し、自分らしく生きるために何度でも立ち上がる。そこには男社会に挑戦という気負いや浮ついた事も無くて、実に健気で清々しい。
そして、河川漁師・源造の厳しい指導、鮎釣り技法の習得、高級料亭の下働きと仲居の仕事にも励み、越前焼の窯元の父子との交流もあり、しなやかに成長していく。空襲体験者の死生観、戦後日本と福井の復興という時代背景も相まって読み応えがある。
伝統の技の継承と歴史の重みを感じ、想像以上に感動的な長編小説だと思う。
満足度 5.gif



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posted by ももた at 08:31| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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