2022年08月15日

エドワードへの手紙

アン・ナポリターノ 著
桑原洋子 訳 「DEAR EDWARD」
装画 安藤巨樹

<あらすじ>
旅客機墜落事故が起き、乗員乗客191名が死亡、生存者は両親と兄を失った12歳の少年エドワード・アドラーだけだった。
少年は唯一の血縁者である母方の叔母レイシー・カーティスに引き取られた。夫のジョンはコンピューター技術者で、夫妻には子供がいない。
エドワードは、松葉杖で歩くことが可能になってから病院を退院し、叔母夫妻の家へ移った。
だが大きな悲しみと恐怖に立ち向かうことができず、頭の中でずっとカチッという音が聞こえ、食べ物が嫌いになった。セラピストに会い、理学療法を受けに行く中、隣の家に住む少女シェイは、エドワードにとって酸素のようなものだった。
墜落事故から2年の月日が経ち、医師たちはエドワードの健康状態には問題がないと断言した。兄のそばで寝ていたエドワードは、シェイと出会って以来、毎晩彼女の部屋で寝ていたが、止める節目に来ていた。ふたりは大人になろうとしていた。危機的状況は終わり、エドワードは前に進まなくてはならない・・・

<感想>
旅客機墜落事故の唯一の生存者である少年の事故後6年に及ぶ日々と、事故が起きる直前の機内の様子が交互に語られる。恐ろしい悲劇だが、ハッピーエンドなので読後感がとても良い。
家族を失い、たったひとり生き残った少年の再生と成長、彼を支える人々の思いやり、エドワードとシェイの友情などを描いた、感動的な青春小説だと思う。映画を観ているような、そんな感じがしたな。
満足度 3.gif



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ローラン・プティマンジャン『夜の少年』 ケイト・クイン『ローズ・コード』
   


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posted by ももた at 09:03| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月12日

罪の因果性

横関大 著

<あらすじ>
市役所収納課の正規職員・倉多佑美は昼当番のとき、家出した恋人を捜しているという男の電話を受けた。相手のペースに乗せられて、意図せず個人情報を漏らしてしまう。
数日後、荻窪ひとみと言う芸名で地下アイドルグループ〈中央線防衛軍〉に所属していた、馬場ひとみが市内の公園で刺殺された。被害者は男が捜していた女性だった。
捜査開始直後に、ストーカーによる犯行の可能性が急浮上する。ベテラン刑事・源田孝介は、被害者の住民情報の漏洩があったかどうか確認するため市役所へ行き、調査を依頼する。
事件発生から4日後、犯人と思われる男から市役所に電話があり、佑美は礼を言われた。佑美は後悔の念に駆られ、好奇の目に晒され、辞職に追い込まれた。
3年後、新生活を営む佑美のもとに、税理士事務所に勤務する星谷隆弘が現れ、事件を再検証したいと言い出す。
星谷は中央線防衛軍のデビューライブから欠かさず観ていた、荻窪ひとみ推しの筋金入りのファンだった。事件は既に終わっていたが、この事件には裏があると考えていた。真相を突き止めるため、当時の担当刑事・源田と荻窪ひとみ推しの仲間も呼び出し、裁判ごっこを始める・・・

<感想>
2017年と2020年を交互に描き、時系列順に事件の概要を振り返っており、登場人物たちの予想外な因果関係が明らかになって行く。
真犯人の周到な計画とオタクの熱意などが相まって、凄く面白いミステリだと思う。
満足度 3.gif



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カミラ・レックバリ『魔術師の匣』
   


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ラベル:星3 横関大
posted by ももた at 08:31| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月10日

裏切り

スコットランド・ヤードの女性刑事ケイト・リンヴィル・シリーズ @
シャルロッテ・リンク 著
浅井晶子 訳 「DIE BETROGENE」

<あらすじ>
イギリスのヨークシャー。寒くて霧深い2月の未明、伝説的な名警部だったリチャード・リンヴィルが自宅で惨殺された。
リチャードは定年退職するまで、多くの犯罪者を刑務所送りにしてきた。地元警察は、残酷な殺害方法から恨みや復讐による犯行と見立て、捜査を進める。
リチャードのたったひとりの子供で、スコットランド・ヤードの刑事でもあるケイトは、アルコール依存症から復帰したばかりのケレイブ・ヘイル警部が、捜査の指揮を執ることに不満を持っていた。捜査が進展しない中、ケイトは長期休暇を取って実家に戻った。
そんなとき、59歳の小学校事務員メリッサ・クーパーが、ケイトの父親のことで話があると連絡してきた。
ところが、彼女も惨殺されてしまう。
メリッサはリチャードの不倫相手だった。しばらく前から追跡・監視されていると脅えていた。メリッサとリチャードが出会った切っ掛けは、16年前のゲームセンター強盗事件だった。
一方、燃え尽き症候群寸前のロンドンのシナリオライター、ジョナス・クレインは、世界の全てから完全に隔絶した暮らしを送るため、妻のステラと5歳の養子サミーを連れて、ヨークシャーの人里離れた農場にやって来た。
ところがそこに、新しい恋人ニール・コートニーに殴られて血まみれになった、サミーの生母であるテリー・マライアンが逃げて来た。その翌日、ニールが現れた。
やがて、ヨークシャー警察が容疑者として捜索中のデニス・ショーブとニール・コートニーは同一人物だと判る。
そして2件の凶悪な殺人事件は、新たな展開を見せる・・・

<感想>
登場人物たちの現況と心情を丁寧に描き、読み応えがある。
主人公は英国で最高の名声を誇るスコットランド・ヤードに勤務する刑事だが、自信を失っていて、友人を見つけることも、男性の心を掴むこともできない、孤独で地味な39歳の独身女性。父親の裏切りを知り、その私生活を調べていくうちに次々と死体に出くわす。
だが、警察とケイトは捜査協力することもなく、犯人像がなかなか見えて来ない。読み進めるに連れ、スリリングな展開になって行き、納屋に閉じ込められたクレイン一家、デニスとテリーの逃走劇、意外な真相などが相まって、凄く面白いミステリだと思う。
舞台はイギリスだが、作者はドイツ人で、このシリーズは現在第3作まで出ていて、9月には第4作が刊行予定とのこと。第2作が楽しみでならない。
満足度 5.gif

posted by ももた at 08:39| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。