2022年08月24日

祖父の祈り

マイクル・Z・リューイン 著
田口俊樹 訳 「WHATEVER IT TAKES」
装画 杉田比呂美

<あらすじ>
未知のウイルスのパンデミックによって荒廃した、アメリカのある町。
第2波で老人の娘は夫を亡くした。老人の最愛の妻が亡くなったのは、第4波だった。色々な物の供給が滞り、金を引き出す前に銀行が潰れてしまった。
町の治安が悪化する中、老人と娘と14歳の孫息子は住む家を失い、空き家を転々としている。生き延びるためにフードバンクで施しを受け、盗みをしないと生きていけない。外に出れば必ず金バッチの警官にIDカードの提示を求められ、子供たちは教育から見捨てられた。
ある日、孫が雌の大型犬を保護し、パンジー・ヴァリアントと名付けた。少年には、こんな世界になる前の記憶が殆どない。自分だけの物を何も持っていなかった。彼らはここを抜け出し、危険な目に遭わずに安全に暮らせる場所を求めていた。
そうした中、少年がIDカードを持っていない13歳の少女マンディを連れて来た。マンディには懸賞金が掛かっていて、大勢の警官が探していた・・・

<感想>
マスク装着にソーシャル・ディスタンス。コロナ禍にぴったりな話だと思い、興味津々で読み始めたが、テレビ、ラジオ、電話、インターネットもなくて、分からない事が多すぎる上、近所の住人もいなくて老人一家しか描かれない。
犬は食用みたいなのにペットフードもあるし、夜間外出の言い訳に犬の散歩が通用するなど、矛盾点も多い。
そして老人一家は、ここではない何処かへ行けば希望があると思っているみたいだが、その保証はない。
色々考えさせられて面白く読ませるが、何も判らないまま終わるので物足りないな。
満足度 2.gif



人気ブログランキング
アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
   


人気ブログランキング
posted by ももた at 09:14| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月22日

流転

越境捜査 H(最終作)
笹本稜平 著

<あらすじ>
神奈川県警瀬谷警察署に勤務する刑事・宮野裕之は、見当たり捜査には自信があった。非番の日、川崎競馬場から帰宅途中の電車内で気になる顔を見つけ、横浜で下車した男の後を追う。
男は12年前、東京都内の富豪一家3人を奥多摩町の山荘で惨殺し、20億円を上回る巨額の資金とともに国外逃亡した木津芳樹だった。当時メガバンクの行員だった木津は、現在国際指名手配されている。巨額な資金の行方は追跡できなかった。
宮野は、法の埒外で巨悪を追及してきたタクスフォース向きの事案だと睨み、木津が借りているマンスリーマンションを突き止めた後、その主要メンバーであり、警視庁捜査一課で迷宮入り事件の継続捜査を担当する鷺沼友哉に連絡した。
かくして、タクスフォースの異名を持つイレギュラー捜査専業のスカンクワーク集団は、捜査に乗り出すが・・・

<感想>
タクスフォースのメンバーは、かつて殺人班に所属していた鷺沼、その同僚・井上拓海巡査部長、彼らの上司で反骨精神のある古狸・三好章、井上と将来を誓い合っている警視庁碑文谷署の山中彩香巡査、元横浜の暴力団幹部でイタリアンレストランチェーン経営者・福富憲一、そして天賦の才の料理の腕で彼らの舌と胃袋を味方につけている鼻つまみ者の不良刑事・宮野。鷺沼の自宅マンションがタクスフォースの臨時本部だ。
「ノーマルな警察の捜査では追及しきれない巨悪の絡む事案を手掛けた結果、行き場のなくなった裏の金を手に入れた」には、職権を悪用して恐喝する犯罪者集団、悪徳警官に思え、少し引いてしまった。だが、経済的制裁の恩恵目当てで捜査するその人間模様は愉快で楽しい。
そして、そんな彼らの行く手を阻むのは、個人情報保護法、本人確認法、税務署の守秘義務などの法律の問題と、それを盾にする悪党の悪知恵だった。批判を誹謗中傷とすり替える社会だもの、皮肉が効いているな。
地道な捜査とハイテク捜査など、謎解きミステリとしての骨組みがしっかりしているから、少々脱線しても許容範囲内かな。
一家惨殺事件と巨額横領事件を描いた、とても面白い警察ミステリだと思う。
満足度 3.gif



人気ブログランキング

エリー・グリフィス『窓辺の愛書家』 アンドレアス・フェーア『聖週間』   


人気ブログランキング
posted by ももた at 08:39| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月17日

九頭竜川

鮎釣り漁師・愛子の希望
第11回新田次郎文学賞
大島昌宏 著

<あらすじ>
昭和20年7月19日、坂井郡丸岡町で暮らす女学校1年生の庄田愛子は、福井市内で営まれた親戚の通夜に祖父・源造、祖母と母の一家4人で出掛け、その帰途空襲に遭遇した。福井市はこの夜の空襲で、市街地の95%が焼き尽くされた。
昭和23年6月28日月曜日、福井地震が発生した。このとき鮎漁師である祖父と、前年シベリアから復員してきた父・勇作は、九頭竜川の流れの中にいた。川底の地盤に深い亀裂が生じ、勇作の体を強い力で吞み込んだ。そして祖母と母は、丸岡町の自宅でこの巨大地震の直撃を受けた。家が崩壊し、2人の体を圧し潰した。県立高校の1年生になっていた愛子は、幸運にも映画館の2階席にいたお陰で命拾いした。福井市はこの震災によって再び市の80%を破壊され、焼き払われた。
そして地震発生以来、1カ月以上も余震が続き、7月23日朝から降り始めた梅雨末期の豪雨は3日間止むことがなく、九頭竜川は再び猛々しい暴れ竜となった。堤防を乗り越え、突き崩し、泥流が福井市北部とその近郊になだれ込み、甚大な被害をもたらした。
大震災から2年を経た昭和25年、福井市は都市再建への途を歩き始めていた。
一方、源造と愛子は水害の後、九頭竜川の南岸に沿った小高い丘の町へ転居し、肩を寄せ合ってひっそりと暮らしていた。連れ合いと後継ぎを一挙に失った源造は、体と心の衰えを自覚し、あと1年経って60歳になったら、鮎漁師をやめようと決めていた。
ところが、高校最後の年を迎えた愛子は、両親が欠けているという家庭環境が重大なネックとなり、就職試験に落ち続けた。
そこで愛子は家業を継ぎ、九頭竜川初の女漁師として自ら人生を切り拓いていく・・・

<感想>
福井の自然に魅了された。鮎の生態と習性、鮎の釣法、技法の伝承、河川漁師の暮らしなど、とても面白く、勉強になった。
また、若い主人公は、僅か3年の間に空襲、地震、水害と痛めつけられ、愛する家族を亡くし、思い描いていた将来を閉ざされても、その境遇を恨むことなく、女性の弱点や因習、恐怖さえもはね返し、自分らしく生きるために何度でも立ち上がる。そこには男社会に挑戦という気負いや浮ついた事も無くて、実に健気で清々しい。
そして、河川漁師・源造の厳しい指導、鮎釣り技法の習得、高級料亭の下働きと仲居の仕事にも励み、越前焼の窯元の父子との交流もあり、しなやかに成長していく。空襲体験者の死生観、戦後日本と福井の復興という時代背景も相まって読み応えがある。
伝統の技の継承と歴史の重みを感じ、想像以上に感動的な長編小説だと思う。
満足度 5.gif



人気ブログランキング
posted by ももた at 08:31| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。