2022年06月30日

理不尽ゲーム

「ルースカヤ・プレミヤ」(ロシア国外に在住するロシア語作家に与えられる賞)受賞
サーシャ・フィリペンコ 著
奈倉有里 訳
装画 出口えり

<あらすじ>
1995年の国民投票以降、街なかでの暴力事件の件数は、うなぎ登りに伸びていた。
5月のある夜、運動公園で催されていたお祭りの大規模イベントが終わる頃、天気が急変した。人々は大雨を避けようと地下鉄の入口に殺到し、パニック状態になった。将棋倒しとなり、大規模な群集圧迫事故が発生、多数の死傷者が出た。
国立の音楽専門学校に通う16歳の少年フランツィスク・ルーキチもこの大惨事に巻き込まれ、昏睡状態に陥った。
その後、植物状態となり、誰もが快復を諦める中、著名な翻訳家でもある祖母エリヴィーラだけは最良の結末を信じ、病室に通い続けた。その間、フランツィスクの母親は、息子の主治医と結婚して男の子を産んだ。
10年後の2009年、余生を孫に捧げてきた祖母が亡くなった。その2日後、ツィスクは奇跡的に目覚めた。
生還したツィスクは、信じられないスピードで快復していく。そして、時間制限付きのWi-Fi、嘘を吐く国営放送、セックス・ツーリズムなど、国の現状に戸惑う。
若者の間では、事実しか話せない「理不尽ゲーム」と言う遊びが流行っていた・・・

<感想>
ロシア政府に依存するベラルーシは、欧州最後の独裁者と呼ばれるルカシェンコ大統領の28年に亘る支配下にある。その内実を政治と無関係な市民の視点で描いており、興味深く勉強になった。
そして、独裁国家の恐ろしさが身に染みた。ソ連崩壊後に独立を果たしても、兄たる国(ロシア)の支配下から逃れるのは至難の業なのだな。考えさせられた。
満足度 4.gif



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posted by ももた at 08:43| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月28日

過ちの雨が止む

ジョー・タルバート・シリーズ A
アレン・エスケンス 著
務台夏子 訳 「The Shadows We Hide」

<あらすじ>
大学を卒業してAP通信社の記者となったジョー・タルバートは、自閉症の弟ジェレミー、間近に司法試験を控えた恋人ライラ・ナッシュと3人で共同生活を送っていた。
ある日、スキャンダルをすっぱ抜いて記事にした、トッド・ドビンズ上院議員から名誉棄損で訴えられた。匿名の情報源を明かせないジョーは、仕事を失う瀬戸際に追い込まれる。
そんなとき、編集長のアリソン・クレスから、ジョーと同姓同名の男の不審死を伝えるプレスリリースを渡された。
ジョーは父親を知らずに育った。キャスペン郡のバックリーという辺鄙な田舎町の農場で死んだ男は、ジョーが生まれてすぐに姿を消した実父だった。
ネット検索してみると、ジョー・タルバート・シニア、通称トークは、穀物サイロでのしくじりに加え、器物損壊、治安紊乱、禁止命令違反、暴行、脅迫2件、飲酒運転3件で逮捕され、有罪になっていた。
しかし、この17年、父は逮捕されていない。弁護士補助員をしていた彼の妻ジーニーが、半年前に首吊り自殺していた。夫妻には14歳の娘エンジェルがいた。
そこでジョーは、トークの事件を調べるため、バックリーへ赴く。するとトークは、ほぼ全ての人に嫌われていた。その兄チャーリーも町に来ていた。トークが殺された日、エンジェルは自殺未遂し、集中治療室にいた。
ジョーはバーテンダーのヴィッキー・パイクから町の噂を聞き、ジェブ・ルイス保安官補と情報交換しながら真相に迫って行くが・・・

<感想>
『償いの雪が降る』の続編である。真犯人の意外性こそ無いが、二転三転するストーリー展開と巧妙な伏線、謎解きと巨大な遺産相続の行方などが相まって読ませる。小さな田舎町を舞台に、複雑な家庭環境で育った主人公が直面する試練と葛藤を描いており、凄く面白いミステリだと思う。
タルバート兄弟のような怪物がいる一方、作者は、罪悪感や悲嘆に暮れて自滅した人、衝動的に罪を犯してしまった人、アルコールやドラッグ中毒者などを登場させ、救いようがない人などいない、人は変われると訴えている。間違いのない人生などない。大事なのは過ちを正す勇気と努力なのだ。「あなたはスーパーマンにならなくても、私を幸せにできる。ただ、真っ当な人でいてくれるだけで良い。」と言うライラの言葉が心に沁みた。想像以上に奥の深い話だったな。
そのライラが主役を務める作品『The Stolen Hours』(2021)が楽しみでならない。
満足度 5.gif



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posted by ももた at 08:53| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月24日

シャギー・ベイン

2020年ブッカー賞・全英図書賞の年間最優秀作品賞
ダグラス・スチュアート 著
黒原敏行 訳 「SHUGGIE BAIN」

<あらすじ>
1980年代、イギリス。スコットランド最大の都市グラスゴーの貧困地区。
シャギー・ベインの母アグネスは、往年の大女優エリザベス・テイラー似の美人で、幼い頃から港湾労働者の父親ウリー・キャンベルに溺愛され、年頃になると派手に遊び、男たちにちやほやされた。堅実なカトリック信者ブレンダン・マクガウアンと結婚し、2歳違いの2人の子供キャサリンとリークをもうけた。
ところがその生活に退屈し、人を惹きつける磁力を持っていたタクシー運転手シャグ・ベインと駆け落ちして再婚する。ふたりはアグネスの両親のアパートで暮らし、末っ子のシャギーが生まれるが、シャグは傲慢で女癖が悪い上に粗暴だった。
やがてアグネスたちは、炭鉱労働者住宅団地ピットヘッドの家に引っ越した。その直後、シャグはアグネスを捨てて、他の女とくっ付いた。
アグネスはアルコール依存症の泥沼に嵌まりこんで行き、唯一の収入である福祉給付金さえも酒代に費やしてしまう。そして、末っ子のシャギーをペットのように可愛がっていた。
2年後、キャサリンがシャグの甥ドナルドと結婚して南アフリカへ行った。その後、アグネスの父が肺癌で亡くなった。それから1カ月も経たないうちに、アグネスの母リジーがバスに撥ねられて死んだ。リークは職業訓練で稼いだ金を貯め、この悲惨な暮らしから自力で脱け出す準備をしていた。
しかし異父兄弟は、自己破壊衝動を抱えた母親から目が離せなくなる。シャギーは必死にアグネスに寄り添うが・・・

<感想>
本書は著者のデビュー作にして自伝的小説とのこと。アルコール依存症の恐ろしさが良く解かった。
福祉国家イギリスが陥った英国病を克服するため、国営企業を民営化し、福祉給付を削減した結果、失業者を増大させ、貧富の差を拡大させたサッチャー政権時代を背景に、アルコール依存症のシングルマザーとその子供たちを描いた、読み応えのある長編小説だと思う。
虚栄心の塊であるアグネスは、母性よりも男を選んだ女。見栄っ張りでプライドが高く美貌が自慢のアグネスは、映画スターの微笑みを手に入れたくて、15歳のとき母親に頼み込み、屈辱のもとだった歯を全部抜いてもらい、セラミックの総入れ歯にした。我儘娘の軽率な望みを聞き入れる母親に呆れた。
そしてアグネスは、度々歯医者へ行かせるのは面倒だからと、リークにも15歳の誕生日に歯を全部抜いてもらうよう説得して、総入れ歯にさせた。虐待とネグレクトにヤングケアラー、そして壊れて行く母親。読むのが辛くなるが、カトリックとプロテスタントの反目、貧しい労働者階級の絶望と堕落した暮らしぶり、女性蔑視と同性愛者差別等々、時代の変容を覚え、感慨深いものがある。
アン・タイラー著『この道の先に、いつもの赤毛』を押さえて、ブッカー賞受賞も納得できるな。
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posted by ももた at 08:50| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。