前田和泉 訳 「IMAGO/THE BIG GREEN TENT」
<内容>
非合法出版に携わる反体制派のイリヤ、繊細な詩人の感性を持つユダヤ人のミーハ、才能ある音楽家サーニャ。この幼馴染みの男性3人を軸に同世代の女性3人、エリート共産党員の娘オーリャ、その幼馴染みで役人の妻となるガーリャとユダヤ人のタマーラを加え、1953年のスターリンの死からソ連崩壊までの激動の時代を生きた人々を描く大河小説。
<感想>
幼馴染みの少年たちの一筋縄では行かない友情と青春、文学の教師シェンゲリのエピソード、イリヤとオーリャの激しい恋、強制収容所を生き延びた人々等々、抑圧された社会に生きる名もなき人々のドラマを描き、史実や音楽や文学が相俟って、凄く読み応えのある大河小説だと思う。
ロシアの大地は地下資源が豊富で食糧自給率も100%。原油、ガス、石炭などエネルギー関連だけでなく、木材や鉱物、農作物も他国に売るほど有り余っている。日本人からすれば羨ましい国土なのに、他国へ野心を持つ独裁者ばかり誕生するのは何故なのだろう。
今現在起きているウクライナ戦争の報道を見て、非人道的なロシア軍の侵略パターンを知り、ソ連崩壊後も人権や人命を尊重しない強権的な国家主義者を支持するロシア国民って何者と思った。その答えを知りたくて一助になればと、かなり分厚い本だけど読んでみた。
そして、ロシア人として住民登録されていても、家族の家系や歴史を辿れば、戦争や流刑や強制移住のせいでその血筋は多民族的だと知った。流刑地や強制移住先で生まれ育った子供は、ロシア語しか話せないロシア人なのだ。
同じ大国でもアメリカには、自由と豊かさを求めて多くの人がやって来る。この国は強制なのだ。凄い国策だな。
また、密告と監視と家宅捜索、流刑や逮捕や迫害や銃殺が罷り通る社会でも、自分の身に振りかかなければ人々は沈黙し、無言を保ち、疑問を感じることなく、曖昧に相槌を打つ技をマスターして、嫌々ながらもしぶとく生きていた。
それに弾圧や教育の成果なのか、強大なシステムに飲み込まれることに抗い、反ソ的な人々でも愛国者だった。
ソ連崩壊から何年経とうと、長い歳月をかけて熟成されてきたロシア国民の気質が変わるとは思えないな。