2021年12月28日

砂に埋もれる犬

桐野夏生 著
装画 フランシスコ・ゴヤ「砂に埋もれる犬」部分

<あらすじ>
小森優真はこれまで母親の男たちに虐待され、苦しめられてきた。男の稼ぎや住まいに依存して暮らしている母親も、優真を大事にしてくれない。父親の違う4歳の弟・篤人でさえ、優真の言うことを聞かなかった。
小学4年生のとき、同級生のスイッチを盗んだことで不登校になった優真は、日々の食事もままならないうえ、どこにも行く当てがなく、街を彷徨っていた。
そんなある日、腹を空かせた優真は、コンビニ店主の目加田に廃棄弁当を貰えないかと頼む。
生まれて初めて、飢えている人を見た目加田は衝撃を受け、無下に断われず弁当をあげる。不憫に思い、何も食べ物がなくなったらまたおいでと言ってしまう。
数日後、優真が虐待の刻印のような青痣を作ってコンビニに来たため、目加田は警察に通報する。優真の母親は、篤人を連れて消えた。優真は児童相談所の一時保護所に2カ月いて、その後、児童養護施設に入所した。
1年後、中学生になった優真は、養育里親になりたいという目加田夫妻の申し出を受けるが・・・

<感想>
居所不明児童、遺棄児童、ネグレクトの連鎖など、ネグレクトされた子供を描いた、読み応えのある長編小説だと思う。
しかし、話が唐突に終わり、啞然とする。正念場を迎えた目加田夫妻と優真はどうするのかという一番肝心な、知りたかったことが書かれていない。苦々しさとやり切れない気持ちだけが残ったな。
満足度 3.gif


posted by ももた at 08:47| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月27日

久遠の島

オーリエラントの魔道師・シリーズ J
乾石智子 著
装画 羽住都

<あらすじ>
フォト連合王国を構成する小国のひとつ、エルズ王国の沖にある久遠の島は、1000年程前に、ササバ王が400人の魔道師の力を集結させて造った。世界中のあらゆる書物を手に取って見ることができ、時の流れが外の世界と違う。王に指名された2人の書物博士の子孫であるジャファル氏族が、島と書物の森と本を護り維持管理してきた。島の住人同士の婚姻を許さないという古い掟があるため、氏族に生まれた者は15歳になると島外へ行き、伴侶を選んで戻った。
その年の夏の初めの日、仲の良い兄ネイダルが島を出ることになり、9歳のヴィニダルはごねていた。サージ国の王子セパターに騙されて禁忌を破り、書物の森の中心部<長老の心臓>にある「誓いの書」(12代分の家系図が書かれた巻物。3代分ずつ全4巻。)を見せてしまう。
結婚式の客人に交じって再び来島したセパターは、振る舞いの酒に眠り薬を入れ、門外不出の氏族だけの書物「誓いの書」を盗む。その直後、魔法が破れて久遠の島は海に沈んだ。
島の牧羊家に生まれた少女シトルフィは、「誓いの書」を1冊奪い返すも島の崩壊に巻き込まれた。姫山羊チャギと共に小舟に乗り、波に運ばれて対岸の町に辿り着く。セパターの雇兵が迫り来る中、この本をネイダルとその姉ダルジリアに届けるべく、フォト連合王国の首都フォトを目指す。
その頃、ダルジリアと再会したネイダルは、王宮庁舎で書記の修業に励んでいた。
一方ヴィニダルも、最も古く価値のある家系図の1巻を取り戻していた。フォト連合王国の南、マードラ国の砂浜に打ち上げられ、首都に住む女ダダメカに売られた。王宮神殿の神官トーキの目に留まり、マードラ呪法の魔道師バリニウスの弟子になるが・・・

<感想>
RPGゲーム「ドラゴンクエスト」を思わせる幕開けに心が弾む。
その後も、水の魔道師オルゴストラの告白、シトルフィとヴィニダルの逃避行、書記や写本師と挿絵画家の修業、「誓いの書」の秘めたる力とそれを使う方法などが相俟って、一気に読ませる。キャラクター造形と景観描写も秀逸だ。
そして終盤で、家も家族も故郷も、護る本も全て失い、正義からも見放されたネイダルたちは、写本と書物の町パドゥキアで再会を果たす。3人は力を合わせて久遠の島の仇を討つのだ。
闇の魔法をものにする不思議な「夜の写本師」の誕生を描いた、凄く面白い冒険ファンタジーだと思う。
満足度 5.gif


posted by ももた at 08:48| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月23日

その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱

高橋久美子 著 
カバーイラスト ITAZURA

<内容>
「みんなのミシマガジン」(2020年3月〜2021年7月)に「高橋さん家の次女」と題してウェブ連載されたものに、加筆・修正のうえ再構成して書籍化したもの。

「はじめに」 「第1章 久美子の乱 第1ラウンド」
「第2章 久美子の乱 第2ラウンド」
「第3章 サトウキビをめぐる冒険」
「第4章 サルとイノシシ現る」
「第5章 命を食べる」
「第6章 農業という表現」
「第7章 久美子の乱 その後」 「長い追伸 そこで暮らすということ」

<感想>
故郷である愛媛県の東予にある小さな町の田圃(小学校の運動場くらいの農地)が太陽光パネルになるのが納得できなくて、全部まとめて土地を買い取ろうと決意した、東京暮らしの37歳の女性の奮闘記である。
農家で生まれ育ち、農業を愛する人の思いが伝わってくる。
現代農業はお金がかかる(農機具)、農地購入の障害と農家を守るための規則、赤砂糖の製造方法、在来種とF1種など、勉強になった。
本書は少し前に読んだ旅エッセイ『旅を栖とす』と同じ作家さんだった。道理で文章が軽快で楽しいと思った。
しかし、興味深いものの、狩猟や畜産、酪農など、肉に言及している第5章は、本題から少しずれていると思う。
「長い追伸」も、閉鎖的な社会のしがらみと因縁、現実を突き付けられ、矢張りそうだったのかという嫌な思いしか残らなかったな。
満足度 3.gif


posted by ももた at 08:44| 東京 ☀| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。