2021年09月30日

渚にて 人類最後の日

ネビル・シュート 著
佐藤龍雄 訳 「ON THE BEACH」

<あらすじ>
第三次世界大戦が勃発した。世界各地におよそ4700発もの核爆弾が投下され、戦争は短期間に終結した。
北半球は濃密な放射能に覆われ、汚染された諸国は次々と死滅したが、オーストラリアはまだ無事だった。オーストラリア海軍のピーター・ホームズ少佐が乗艦するフリゲート艦アンザックは、どうにかウィリアムズタウンに帰還した。
一方、かろうじて生き残ったアメリカ合衆国海軍原子力潜水艦スコーピオンは、汚染帯を避けてメルボルンへ退避した。
スコーピオンの連絡士官に任命されたホームズ少佐は、艦長のドワイト・L・タワーズ大佐をホーム・パーティーに招待する。それが縁で、タワーズ大佐と牧場主の娘モイラ・デイヴィッドスンは親しくなる。
そんな中、アメリカのシアトル周辺のどこかから断片的なモールス信号が届いていた。生存者の探索がタワーズ大佐たちの任務だった。スコーピオンは、無線電波の発信源を突き止めるために出航する。
しかし、放射性物質は徐々に南下し、人類最後の日は刻々と近づいていた・・・

<感想>
報復合戦となってしまった核戦争が終結して2年後、人類の終焉へ向かう約半年間の出来事を淡々とした筆致で描いていおり、人生に残された最後の時間の過ごし方、死に方の選択など、色々考えさせられた。
そして読了後、深い感動とその静かな余韻に包まれる。破滅をテーマとした傑作だと思う。
いわゆる無政府状態の荒廃した世界を描くパニック小説ではない。
人類最後の日が迫る中、誰もこの災厄を生き延びることは出来ないと覚悟しつつも、人々は最善を尽くして生きている。公共機関は機能し、飲食店や商店も開いている。職場放棄する者やドロップアウトしていく者、ルール破りや無法者、道徳に背く者もいない。現実から逸れた夢の世界に生きる若い母親、放射能に体が蝕まれる前にやれる仕事をやっておこうとする牧場主、カー・レースの優勝という長年の夢を果たすスコーピオンの科学士官など、善良な人々が平素と同じように行動している。
そして互いを思いやり尊重し、諍いや争い事を回避して、ひと時の楽しみや喜びを至福のものにする。どこへ逃げても運命が同じならば、心の準備をして死を受け入れるしかないのだ。
愛する者との今生の別れでさえ私欲を捨て、寛容と慈愛に溢れている。胸が潰れるような辛い悲劇だけど、暗い気分になることはなかった。この作家さん好きだな。翻訳出版が少ないのが残念でならない。
満足度 5.gif



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『渚にて』  『試練 コービット一家に何が起きたのか』
   

『パイド・パイパー 自由への越境』  『アリスのような町』
   


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posted by ももた at 08:49| 東京 ☀| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月29日

戦火の馬

マイケル・モーパーゴ 著
佐藤見果夢 訳 「War Horse」
装画 エグモント社

<あらすじ>
生まれて6カ月にもならない仔馬ジョーイと、13歳の男の子アルバートは、出会った瞬間から信頼と愛に満ちた深い友情で固く結ばれた。
ジョーイが農場に来て2年ほど経った頃、農耕馬の特訓が始まった。それから数カ月後、第一次世界大戦が始まった。英国がドイツに宣戦布告すると、農場の暮らしにも戦争の影が忍び寄ってきた。
金を必要とするアルバートの父親は、ジョーイを騎兵隊のニコルズ大尉に売り渡した。それを知ったアルバートは、入隊を決意するも軍隊の応募資格は17歳以上だった。その年齢になったら、必ずジョーイを探しに行くと約束する。
生涯の友と別れたジョーイは、戦場へ送られるまでの間、農耕馬から騎兵隊用の軍馬へと変身を遂げなければならなかった。唯一の慰めは、ニコルズ大尉が話しかけてくれることだった。
やがてジョーイは、改造した定期船の船倉に積み込まれ、フランスへ、そして戦場へと運ばれて行った。行軍するごとに、故郷を離れて暮らす術を学び、少しずつ戦火の洗礼を受けて行き、初めての戦闘でニコルズ大尉が戦死した。
その後も、英国騎兵隊の優秀なる騎馬ジョーイは、悲惨な戦場や地獄の戦闘、地獄の戦火を走り続けた。たった2騎で敵陣の真っ只中に切り込み、ドイツ軍に捕まってしまう・・・

<感想>
「第一次世界大戦で、およそ200万頭の馬が銃弾や大砲に倒れ、又は泥濘に浸かり、病気になって死んだ。イギリス政府は終戦後、本国に輸送するには費用が掛かり過ぎるという理由で、生き残った馬を食肉用としてフランスの肉屋に売った。」この事実を知った著者は怒りを覚え、本書を書く切っ掛けになったそうだ。

本書の主人公は、サラブレッドの血が半分混じる勇敢な牡馬。生涯の友アルバートと切り離されてから、英国騎兵隊の軍馬、ドイツ軍の使役馬(野戦病院の救急馬車引き)、フランス人の農場の農耕馬、再びドイツ軍の使役馬(砲弾運びと大砲引き)として、熾烈を極める戦争の最中、主人の要求に応えようと懸命に働く。ジョーイにとって戦争の勝敗も、主人が英独仏どの国の人間であろうと関係ない。食料を充分に貰え、手厚い世話をしてくれて、愛情をたっぷり注いでくれることが全てだった。
前線の無人地帯(生きた人間のいない場所)に迷い込んだジョーイを巡るイギリス兵とドイツ兵のエピソードは素敵だな。
そして、競りでジョーイを買った農家のお爺さんの言葉にも感動した。
悲惨な戦争の話だけど、英独どちらも善き兵隊なのが嬉しい。
それにハッピーエンドなので読後感がとても良いと思う。
満足度 5.gif



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posted by ももた at 08:48| 東京 ☀| Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月28日

おばさん探偵 ミス・メープル

おばさん探偵 ミス・メープル 
柊坂明日子 著
カバーイラスト トミイマサコ

<内容>
東京・世田谷区の一等地に建つ年季の入っているイギリス、チューダー様式の洋館にひとりで住む、元は大富豪のお嬢さまであり、大河ショー和(タイガショーヤマト)と言う男性名のペンネームでSFバイオレス・アクション・エログロ・超ハードボイルド小説を書いている50代前半の覆面作家、森野楓子を主人公としたコミカル・コージー・ミステリ。

「第1話 グレイのシャネルが謎を解く」「第2話 危険な航海」「第3話 若き日のミス・メープル」「余話 ミス・メープルの12か月」の4編を収録したもの。

<感想>
主人公の森野楓子は、令和に生きながらも昭和が好きで昭和から抜けられない、超マイペースなおばさん。かなりの美食家のうえ、記憶力も抜群に良い。絵本作家デビューしたものの、さっぱり売れなかったが、いつか元の絵本作家業に戻ることを夢見ている。固定資産税を払うために、不本意ながらもエログロ・ハードボイルド系の小説を書いている。
普段はおっとり天然で世間知らずの色恋沙汰無縁の中年女性だけど、2作目の絵本を出すチャンス到来と見るや、担当編集者の吉井遼27歳を巻き込み、おばさんパワー全開になる。
おばさん探偵ミス・メープル誕生のエピソードや漫画家のトラブルなどを軽快なタッチで描いており、とても楽しいコージーミステリだと思う。
満足度 3.gif



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『銀座発23時59分シンデレラ急行』キャシー・アーロン『トリュフチョコと盗まれた壺』
   

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posted by ももた at 10:05| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。