佐藤龍雄 訳 「ON THE BEACH」
<あらすじ>
第三次世界大戦が勃発した。世界各地におよそ4700発もの核爆弾が投下され、戦争は短期間に終結した。
北半球は濃密な放射能に覆われ、汚染された諸国は次々と死滅したが、オーストラリアはまだ無事だった。オーストラリア海軍のピーター・ホームズ少佐が乗艦するフリゲート艦アンザックは、どうにかウィリアムズタウンに帰還した。
一方、かろうじて生き残ったアメリカ合衆国海軍原子力潜水艦スコーピオンは、汚染帯を避けてメルボルンへ退避した。
スコーピオンの連絡士官に任命されたホームズ少佐は、艦長のドワイト・L・タワーズ大佐をホーム・パーティーに招待する。それが縁で、タワーズ大佐と牧場主の娘モイラ・デイヴィッドスンは親しくなる。
そんな中、アメリカのシアトル周辺のどこかから断片的なモールス信号が届いていた。生存者の探索がタワーズ大佐たちの任務だった。スコーピオンは、無線電波の発信源を突き止めるために出航する。
しかし、放射性物質は徐々に南下し、人類最後の日は刻々と近づいていた・・・
<感想>
報復合戦となってしまった核戦争が終結して2年後、人類の終焉へ向かう約半年間の出来事を淡々とした筆致で描いていおり、人生に残された最後の時間の過ごし方、死に方の選択など、色々考えさせられた。
そして読了後、深い感動とその静かな余韻に包まれる。破滅をテーマとした傑作だと思う。
いわゆる無政府状態の荒廃した世界を描くパニック小説ではない。
人類最後の日が迫る中、誰もこの災厄を生き延びることは出来ないと覚悟しつつも、人々は最善を尽くして生きている。公共機関は機能し、飲食店や商店も開いている。職場放棄する者やドロップアウトしていく者、ルール破りや無法者、道徳に背く者もいない。現実から逸れた夢の世界に生きる若い母親、放射能に体が蝕まれる前にやれる仕事をやっておこうとする牧場主、カー・レースの優勝という長年の夢を果たすスコーピオンの科学士官など、善良な人々が平素と同じように行動している。
そして互いを思いやり尊重し、諍いや争い事を回避して、ひと時の楽しみや喜びを至福のものにする。どこへ逃げても運命が同じならば、心の準備をして死を受け入れるしかないのだ。
愛する者との今生の別れでさえ私欲を捨て、寛容と慈愛に溢れている。胸が潰れるような辛い悲劇だけど、暗い気分になることはなかった。この作家さん好きだな。翻訳出版が少ないのが残念でならない。

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