務台夏子 訳 「JAMAICA INN」
<あらすじ>
父の死後も農場をやりながら気丈に自分を育ててくれた母が亡くなり、23歳のメアリー・イエランは、叔母ペイシェンスとその夫ジョス・マーリンが経営する宿・ジャマイカ館に身を寄せることになった。
しかし、荒漠とした原野のうら淋しい街道筋に一軒だけぽつんと建っているジャマイカ館は、評判が悪く、真っ当な旅行者は近寄らない。悪い噂も立っていた。
そしてジョス叔父は、粗暴な荒くれ者の大男だった。ペイシェンス叔母に昔の面影はなく、やつれて怯えていた。絶え間ない虐待によって絶対服従を教え込まれた忠犬のようだった。
そんな夫婦の下、メアリーは食事と部屋を提供される代わりに、家事とバーを手伝うことになった。
ところが、夜になるとジャマイカ館を訪れる男たちは、野卑なならず者の集団だった。そして、夜陰に紛れ、密かに荷馬車がやって来た。ジョス叔父は、大規模な密輸ビジネスに関わっていたのだ。ジャマイカ館は盗人と密猟者の巣窟だった・・・
<感想>
ヒッチコック監督の映画『鳥』の原作者として有名な作家さんである。本作も映画化されているそうだ。
本作の時代設定は1815年頃で、労働者は1日の仕事が終われば眠りに就き、若い独身女性のひとり暮らしを良しとしない時代。舞台となるのはコーンウォール州北部のボドミン・ムーア。その景観描写や人物描写と心理描写が素晴らしいと思う。
そして、気が強くて勇敢で好奇心旺盛な若い女性の冒険と気骨などを描き、スリリングな展開になっている。ジャマイカ館の真実と黒幕の正体、自惚れが強いワルとのロマンスが相俟って、とても面白いサスペンス小説だと思う。
しかし、一件落着後のヒロインの選択には落胆したな。なぜに恋する若い女性はいつの時代も愚かなのだろう。まるで映画のオチみたいだと思った。
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