2021年07月30日

原野の館

ダフネ・デュ・モーリア 著
務台夏子 訳 「JAMAICA INN」

<あらすじ>
父の死後も農場をやりながら気丈に自分を育ててくれた母が亡くなり、23歳のメアリー・イエランは、叔母ペイシェンスとその夫ジョス・マーリンが経営する宿・ジャマイカ館に身を寄せることになった。
しかし、荒漠とした原野のうら淋しい街道筋に一軒だけぽつんと建っているジャマイカ館は、評判が悪く、真っ当な旅行者は近寄らない。悪い噂も立っていた。
そしてジョス叔父は、粗暴な荒くれ者の大男だった。ペイシェンス叔母に昔の面影はなく、やつれて怯えていた。絶え間ない虐待によって絶対服従を教え込まれた忠犬のようだった。
そんな夫婦の下、メアリーは食事と部屋を提供される代わりに、家事とバーを手伝うことになった。
ところが、夜になるとジャマイカ館を訪れる男たちは、野卑なならず者の集団だった。そして、夜陰に紛れ、密かに荷馬車がやって来た。ジョス叔父は、大規模な密輸ビジネスに関わっていたのだ。ジャマイカ館は盗人と密猟者の巣窟だった・・・

<感想>
ヒッチコック監督の映画『鳥』の原作者として有名な作家さんである。本作も映画化されているそうだ。
本作の時代設定は1815年頃で、労働者は1日の仕事が終われば眠りに就き、若い独身女性のひとり暮らしを良しとしない時代。舞台となるのはコーンウォール州北部のボドミン・ムーア。その景観描写や人物描写と心理描写が素晴らしいと思う。
そして、気が強くて勇敢で好奇心旺盛な若い女性の冒険と気骨などを描き、スリリングな展開になっている。ジャマイカ館の真実と黒幕の正体、自惚れが強いワルとのロマンスが相俟って、とても面白いサスペンス小説だと思う。
しかし、一件落着後のヒロインの選択には落胆したな。なぜに恋する若い女性はいつの時代も愚かなのだろう。まるで映画のオチみたいだと思った。
満足度 3.gif



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『鳥』 アレクサンドル・ガリアン『夜の爪痕』 エリー・グリフィス『見知らぬ人』
  


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posted by ももた at 09:04| 東京 ☀| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月28日

スクリーム

ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレント・シリーズ I
カリン・スローター 著
鈴木美朋 訳 「THE SILENT WIFE」

<あらすじ>
2日前に刑務所で暴動が起き、刑務官6名と受刑者3名が重傷を負い、受刑者のヴァスケスがカフェテリアで惨殺された。
その殺人事件の捜査に当たるウィルとフェイスは、受刑者のネズビットから犯人を教える代わりに、8年前の女子大学生連続強姦殺人事件を再捜査するよう取引を持ちかけられる。
ネズビットは、サラの亡夫であるグラント郡警察署長ジェフリー・トリヴァーとレナ・アダムズ刑事の不正捜査によって刑務所に入れられ、真犯人が野放しになっていると言うのだ。ネズビットは殺人罪では証拠不充分で不起訴となったが、児童ポルノ所持罪で有罪判決を受けて服役していた。
そこでウィルたちは、ヴァスケス殺人事件だけでなく、グラント郡の事件も再捜査することになった。
折しも昨日、ハイカーのアレクサンドラ・マカリスターが、州立ユニコイ公園で遺体となって発見されていた。検死官のサラは、8年前の被害者ベッキー・カタリノとの共通点に気付く・・・

<感想>
過去と現在を交互に描き、8年もの間、15人の女性を殺して5人の女性を傷付けたシリアルキラーを追う展開で読者を引きつけ、最後まで面白く読ませる。捜査関係者の人間模様とレギュラー陣の人間ドラマも面白いと思う。
しかし、真犯人に意外性はない。寧ろ読書中、他に疑わしい人物が見当たらない。その真犯人が自分の意志で命を絶ってしまい、本筋の事件は解決するものの、ヴァスケス殺人事件は置き去りのまま終わる。暴力的な描写とか、仕掛けにまんまと騙された感がする。警察小説というよりもサラの恋の話、サラとウィルの関係を描いたラブ・ストーリーみたいだと思った。
グラント郡シリーズ3作目『A Faint Cold Fear』が2021年冬に刊行予定とのこと。楽しみだな。
満足度 4.gif



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マイケル・ロボサム『天使と嘘』
   

マイクル・コナリー『鬼火』
   


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posted by ももた at 08:38| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月26日

黄金の檻

フェイ・シリーズ @
カミラ・レックバリ 著
奥村章子 訳 「EN BUR AV GULD」

<あらすじ>
高校を卒業した2年後、全てを捨てて故郷フィエルバッカをあとにしたフェイは、長年憧れ続けていた街ストックホルムにやって来た。新しい人生を始めるべく、名前をマティルダからミドルネームのフェイにして、誰もが憧れるストックホルム商科大学に入学する。
在学中に、後に大企業のCEOとなる新進実業家であり、落ちぶれている貴族のハンサムな息子ヤック・アーデルハイムと出会い結婚する。ヤックの夢を叶えるためにフェイは大学を辞め、カフェで働いて家計を支えた。起業前後の数年間も、会社名やビジネスモデルを提案してヤックを支えた。そして2人は、お金、社会的なステータス、富の力など、全てを手に入れた。豪華な高層アパートメントで幼い娘ユリエンと3人で優雅に暮らすフェイも、誰もが羨む完璧な家庭を築いてきた。
しかしヤックはフェイを裏切り、浮気をしていた。離婚したときに何も貰えない婚前契約に同意していたフェイを、裸同然で家から追い出す。
怒り心頭に発したフェイは復讐を誓う。ヤックを破滅させるべく計画を練るが・・・

<感想>
残念ながら、エリカ&パトリック事件簿シリーズではない。
最愛の夫に裏切られた野心的な女性の過去と現在を交互に描き、少しずつフェイの実像とリベンジ計画が明らかになって行く。何ともまぁ、恐ろしい女性だったな。
サクセスストーリーに再生劇と復讐劇などが相俟って、面白い北欧ミステリだと思う。
本国では既に発売されているという続編『VINGAR AV SILVER』(「銀の翼」という意味)が楽しみだな。
満足度 3.gif



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フェイ・ウェルドン『魔女と呼ばれて』  カルメン・モラ『花嫁殺し』
   


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posted by ももた at 09:30| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。