装画 いとうあつき
<あらすじ>
昭和47年5月14日の朝、兄が妻と寝たきりの義父、5歳の娘を殺して無理心中を図った。自ら通報して死刑を免れた兄はそのまま服役した。惨劇の後、現場の三宅医院は閉院になった。
実家と疎遠になっていた紘二郎は、住む人がいなくなった廃院に戻り、独りで暮らし始めた。出所した兄とは完全に音信不通となった。
ところが、あと少しで平成の世も終わるという3月20日、全てを失って孤独に生きる紘二郎に当てつけるかのように、兄が絵葉書を寄越した。葉書に書かれていたのは、広瀬旭荘の「夏初遊櫻祠」の一節だった。
この葉書の所為で、これまで紘二郎が無理矢理閉ざしていた蓋が開いてしまう。兄を許すことなどできない。殺しに行くと決め、1か月半かけて念願の中古車コンテッサ1300クーペを手に入れた。
ところがコンテッサは、かなり粗悪な接合車だった。そこで紘二郎は、詐欺同然にコンテッサを売り付けた無一文の若い金髪男、蓬萊リュウを運転交代要員として雇い、兄が暮らす九州の日田へ旅立つが・・・
<感想>
主人公は、不自然に心を押さえつけ、約50年もの間誰とも関わらずに生きて来た。頑固で孤独な74歳の老人。偏屈な彼の頭にあるのは、「兄を殺さなければ」という妄執だけ。
そして旅の道連れは、施設育ちの25歳のホームレス。祖父と孫のコンビだな。
この組み合わせは良く有る話だし、怒りと悔恨と執着心など過去に支配された老人の恨み節に引いてしまったが、旅が進むに連れ、不義と10代の一途な恋、蓬萊リュウの生い立ち、紘二郎とリュウの意外な繋がり、一家惨殺事件の真相などが明らかになって行き、面白く読ませる。
そして毒親による子供の虐待、介護と育児ノイローゼなどの社会問題と、身分違いの恋も織り込み、人間の愚かさや寛容、笑いと涙ありの感動的な話になっていると思う。
でも、若者の理不尽な死で決着する話は堪える。嫌だな。
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