山折哲雄 編
<内容>
「解説 忘れられた戦犯者の記録 山折哲雄」
「苦悶記」 「巣鴨日記抄」
「短歌抄 獄中詠」 「俳句抄 獄中詠」
「わが道楽記 随筆二篇 わが道楽記(一)絵の巻/わが道楽記(二)大道連珠の巻」
「参考図版 巣鴨三十六景(『巣鴨版画集』)」
「付録「巣鴨の父」田嶋隆純の生涯 山折哲雄」
<感想>
「苦悶記」は、『鉄窓の月―戦犯者の信仰記録』に収められた一篇で、『苦悶記―冬至堅太郎遺稿集』を底本としている。「巣鴨日記抄」は、巣鴨プリズン入所から昭和27年9月にかけて綴られた日記の抄録。
1948年(昭和23年)12月29日、東京商科大学(現、一橋大学)出身の元陸軍主計大尉冬至堅太郎は、捕虜処刑事件の実行者として死刑判決を受けたが、後に終身刑に減刑され、1956年(昭和31年)7月に出所した。巣鴨プリズンに入所した1946年(昭和21年)8月30日から、およそ10年経っていた。
潔く罪を認め死刑は当然と思っても、上官や国家の責任に対する煩悶とか家族への思いを赤裸々に綴っており、不安や苦悩に揺れる悲痛な胸中と救いを求める心理が迫ってくる。
3人の師との想い出(自決を止め、辛くても自分のいる所が全世界として生き抜くよう諭してくれた蓮舟和尚、同じ運命に置かれていた岡田資・元陸軍中将、巣鴨の父と呼ばれた教誨師・田嶋隆純)、獄中の精神生活と信仰、処刑前の死刑囚の様子など、読み応えのある良書だと思う。
因みに当時、裁判で処刑された戦犯の数は1000名近くに達し、大多数はBC級戦犯(通例の戦争犯罪と人道に対する罪で訴追された者)とのこと。国を守るために命懸けで戦い、捕虜や戦死を逃れたものの戦争犯罪人として処刑された。軍人ならば上官の命令に背けなかったのに、無念だったろうな。
そして、A級戦犯(平和に対する罪で訴追された者)の東条英機元首相ら7名に死刑が執行されたのは12月23日、上皇様(当時は皇太子)の誕生日だった。平成の天皇誕生日を祝うとき、そんなことを思いもしなかった。ご遺族の心中は複雑だったろうな。
冬至堅太郎氏は獄中で、多くの戦犯たちの遺書を中心となって取りまとめ、『世紀の遺書』(巣鴨遺書編纂会 昭和28年)として出版に漕ぎ着けたとのこと。その収益でJR東京駅の丸の内側の駅前広場に、死刑囚の鎮魂ための「愛の像」を建てた。愛知県幡豆郡三ヶ根山の山頂には、処刑されたA級戦犯7名の墓(殉国七士廟)があるそうだ。
BC級戦犯裁判の矛盾はさておき、この時代の人は何か違う。色々考えさせられ、勉強になった。一読の価値がある本だと思う。
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【稀少復刻版】
『死と栄光―戦犯死刑囚の手記(『世紀の遺書』より約百篇を収録)』
森口豁『最後の学徒兵 BC級死刑囚・田口泰正の悲劇』 大岡昇平『ながい旅』
映画『明日への遺言』 『プライド 運命の瞬間』
『きけわだつみのこえ』 神立尚紀『太平洋戦争秘史 戦士たちの遺言』
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