2021年06月11日

満洲難民 北朝鮮・三八度線に阻まれた命

井上卓弥 著

<内容>
「第1章 ソ連参戦 1945年8月9日、新京」
「第2章 1094名の疎開隊 北朝鮮・郭山」
「第3章 足りない食糧」
「第4章 飢餓の冬」
「第5章 死にゆく子どもたち」
「第6章 旧満州への帰還」
「第7章 残された人々 1946年春、郭山」
「第8章 38度線を目指して 決死の脱出行」
「第9章 国共内戦の荒波 1946年、長春」
「第10章 最後の脱出行 1946年9月」
「終章 日本人難民 戦後史の闇」

<感想>
敗戦に伴って満州から北朝鮮に疎開した日本人難民(主に女子供。根こそぎ動員により夫が出征し、疎開隊を引率する男は少数。)の記録である。
本書に登場する井上寅吉と喜代の長女・泰子は、著者の伯母に当たるそうだ。著者が新聞社に入社して5年目、戦後50年に当たる1995年に伯母は、祖母・喜代の手記を下敷きにして『北朝鮮・郭山への墓標』を自費出版した。そして2005年には、著者の父・昌平(当時10歳だった)が一家の引き揚げでの苦闘も含めて自伝『追想のわが来し方』を著した。つまり本書は、敗戦の殺伐とした混乱を生き抜いた著者の家族の歴史でもある訳で、当事者ならではの強い思いれを感じた。
日本政府に見捨てられ、国際社会からも援助を受けることのなかった朝鮮北部の日本人難民の実態を、良くもこれだけ詳細に調べたものだと思う。疎開隊も良くぞその名簿や死亡者名簿、疎開日誌と共同墓地の見取り図などを無事に持ち帰り、大切に保管してくれたものだと思う。証言だけでなく書類があると説得力が違う。胸に迫ってくるものがある。
戦後何年経とうと、シベリア抑留と同じく歴史に埋もれさせてはいけない棄民政策だと思った。読み応えがあったな。
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城内康伸/藤川大樹
『朝鮮半島で迎えた敗戦 残留邦人がたどった苦難の軌跡』


『死と栄光―戦犯死刑囚の手記』  森口豁『最後の学徒兵BC級死刑囚・田口泰正の悲劇』
   


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2021年06月09日

ブート・バザールの少年探偵

2021年度アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞) 最優秀長篇賞受賞作
ディーパ・アーナパーラ 著
坂本あおい 訳 「DJINN PATROL ON THE PURPLE LINE」
カバーイラスト 長崎訓子

<あらすじ>
インドの居留区(スラム街)に住む、刑事ドラマ好きの9歳の少年ジャイは、両親と12歳の姉ルヌと共に、貧しいながらも幸せな日々を送っていた。
そんなある日、同じクラスの吃音の生徒バハードゥルが姿を消した。学校の先生は深刻に捉えず、地元警察も賄賂なしには捜査に乗り出さない。
そこでジャイは、親友であるムスリムの少年ファイズと、勉強好きで賢い少女パリと共に少年探偵団を結成する。
そんな中、またしても失踪事件が起きた。姿を消したのは、バハードゥルの友達のオムヴィル。
ジャイたちは、バザールや鉄道駅などを捜索するも、次々と子供たちが消えて行く・・・

<感想>
「インドでは毎日180人もの子供が行方不明になる。」この一文に衝撃を受け、いつの話かと思ったら2019年の執筆で、2021年度アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の最優秀長篇賞受賞作だった。
著者はインド・ケーララ州生まれの元ジャーナリストで、本書がデビュー作とのこと。
インドの貧困と社会の闇を描いており、インドの社会問題という物珍しさも手伝ってそそられた。
しかし、謎解きミステリの面白味はあまりないな。
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ベン・クリード『血の葬送曲』  マイクル・コナリー『鬼火』
  


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posted by ももた at 09:49| 東京 🌁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月07日

ある「BC級戦犯」の手記

元陸軍主計大尉冬至堅太郎 著
山折哲雄 編

<内容>
「解説 忘れられた戦犯者の記録 山折哲雄」
「苦悶記」  「巣鴨日記抄」
「短歌抄 獄中詠」  「俳句抄 獄中詠」
「わが道楽記 随筆二篇 わが道楽記(一)絵の巻/わが道楽記(二)大道連珠の巻」
「参考図版 巣鴨三十六景(『巣鴨版画集』)」
「付録「巣鴨の父」田嶋隆純の生涯 山折哲雄」

<感想>
「苦悶記」は、『鉄窓の月―戦犯者の信仰記録』に収められた一篇で、『苦悶記―冬至堅太郎遺稿集』を底本としている。「巣鴨日記抄」は、巣鴨プリズン入所から昭和27年9月にかけて綴られた日記の抄録。

1948年(昭和23年)12月29日、東京商科大学(現、一橋大学)出身の元陸軍主計大尉冬至堅太郎は、捕虜処刑事件の実行者として死刑判決を受けたが、後に終身刑に減刑され、1956年(昭和31年)7月に出所した。巣鴨プリズンに入所した1946年(昭和21年)8月30日から、およそ10年経っていた。

潔く罪を認め死刑は当然と思っても、上官や国家の責任に対する煩悶とか家族への思いを赤裸々に綴っており、不安や苦悩に揺れる悲痛な胸中と救いを求める心理が迫ってくる。
3人の師との想い出(自決を止め、辛くても自分のいる所が全世界として生き抜くよう諭してくれた蓮舟和尚、同じ運命に置かれていた岡田資・元陸軍中将、巣鴨の父と呼ばれた教誨師・田嶋隆純)、獄中の精神生活と信仰、処刑前の死刑囚の様子など、読み応えのある良書だと思う。
因みに当時、裁判で処刑された戦犯の数は1000名近くに達し、大多数はBC級戦犯(通例の戦争犯罪と人道に対する罪で訴追された者)とのこと。国を守るために命懸けで戦い、捕虜や戦死を逃れたものの戦争犯罪人として処刑された。軍人ならば上官の命令に背けなかったのに、無念だったろうな。
そして、A級戦犯(平和に対する罪で訴追された者)の東条英機元首相ら7名に死刑が執行されたのは12月23日、上皇様(当時は皇太子)の誕生日だった。平成の天皇誕生日を祝うとき、そんなことを思いもしなかった。ご遺族の心中は複雑だったろうな。
冬至堅太郎氏は獄中で、多くの戦犯たちの遺書を中心となって取りまとめ、『世紀の遺書』(巣鴨遺書編纂会 昭和28年)として出版に漕ぎ着けたとのこと。その収益でJR東京駅の丸の内側の駅前広場に、死刑囚の鎮魂ための「愛の像」を建てた。愛知県幡豆郡三ヶ根山の山頂には、処刑されたA級戦犯7名の墓(殉国七士廟)があるそうだ。
BC級戦犯裁判の矛盾はさておき、この時代の人は何か違う。色々考えさせられ、勉強になった。一読の価値がある本だと思う。
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【稀少復刻版】
『死と栄光―戦犯死刑囚の手記(『世紀の遺書』より約百篇を収録)』


森口豁『最後の学徒兵 BC級死刑囚・田口泰正の悲劇』  大岡昇平『ながい旅』
   

映画『明日への遺言』   『プライド 運命の瞬間』
   

『きけわだつみのこえ』  神立尚紀『太平洋戦争秘史 戦士たちの遺言』
   


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posted by ももた at 09:13| 東京 ☀| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。