2021年06月23日

三時間の導線

グレーンス警部&スンドクヴィスト警部補・シリーズ G
アンデシュ・ルースルンド 著
清水由貴子/喜多代恵理子 訳 「Tre Timmar」

<あらすじ>
ストックホルム南病院の解剖技術者ラウラが、遺体安置所に死亡診断書も記録もない身元不明の男性の死体が紛れ込んでいるのを発見した。
警察の検死の結果、男性の死因は窒息死、西アフリカ出身と判明するも、身元を特定する手掛かりは掴めない。遺体から粉末消火器の主成分であるリン酸アンモニウムが検出されるが、遺体には火に近づいたことを示す形跡がなかった。
グレーンス警部がこの奇妙な事件の捜査を始めると、またしてもラウラが遺体安置所で余分な死体を発見する。死因は窒息及び呼吸困難によるパニック発作。この身元不明の若い女性の遺体にも外傷はなかったが、リン酸アンモニウムが検出された。
ストックホルム南病院は、地下道の上に位置していた。グレーンス警部は、遺体が地下道から運び込まれたと見立て、警察犬を使って追跡し、西アフリカの難民の遺体が大量に詰まったコンテナを発見する。
さらに聖ヨーラン病院でも、登録されている遺体の数より3体余分にあると判る。
そして、コンテナで発見された衛星電話の指紋が、元潜入捜査員ピート・ホフマン・コズロウの指紋と一致する。
ピート・ホフマンは現在、国連の委託を受けた民間警備会社の食糧輸送隊の警備員として働き、スウェーデンとアフリカを行き来していた。衛星電話は彼が難民カップルに与えていた。
グレーンス警部は、ストックホルムの大量殺人事件を解明すべく、ニジェールの首都ニアメへ飛ぶ。スウェーデンで難民ビジネスの窓口になっている人物を捕えるため、ピート・ホフマンを密航組織の潜入捜査に駆り出すが・・・

<感想>
グレーンス警部は64歳。これまで孤狼のイメージが強かったが、上司や部下も良き理解者となっている。また、ホフマン家の兄弟との交流もあり、彼は家族の温もりを知る。
一方ピート・ホフマンは、前作と同じ役回り。懲りない男だな。いつか命を落とすのではと心配になる。
黒幕の正体に驚きはないけれど、終盤はスリルとサスペンスに富んだ展開になっており、とても面白い北欧警察ミステリだと思う。続編『Jamahonleva Sovsagott』が楽しみでならない。
満足度 4.gif

   


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posted by ももた at 10:27| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月22日

奥多摩連山闇のシルエット

聖岳郎 著

<あらすじ>
2年前に中堅製薬会社を辞め、退職金と親の脛を齧りながら気楽に気ままな探偵稼業をしている43歳の空木健介は、元同僚の菊永昭と鷹ノ巣山(標高1,737m)登山へ出かけ、石尾根下山ルートで男の転落遺体を発見した。
転落者は、世田谷区在住の製薬会社社員・横山忠35歳。空木と菊永は山頂で、単独登山だった横山が男と一緒に食事しているのを目撃していた。
奥多摩警察署は、「主人は知り合いと2人で雲取山へ行くと言っていた」という妻・晴美の証言、横山忠のスマートフォンが消えていたことなどから事件性が高いと判断する。
空木の高校時代の同級生で酒飲み友達でもある石山田巌刑事が捜査を進めると、登山届に他人の名前を騙った者がいた。名前を使われたのは、空木の探偵事務所兼自宅のある国立に住む製薬会社社員・小谷原幸男。
空木と小谷原は、会社は違ったが共に山好きなことから親しくなり、酒を飲む友人となっていた。空木は小谷原と晴美の調査依頼を受け、偽名を使った人間と横山の同行者の特定という探偵の仕事に乗り出す。
そうした中、鋸山(標高1,109m)付近で興信所の調査員・赤城太の他殺体が見つかる。空木と石山田は協力して事件の真相を追うが・・・

<感想>
事件現場は鷹ノ巣山と鋸山。空木は伊吹山(標高1,377m)にも登っている。調査を進めると、人と人の思わぬ繋がりや因縁が浮上し、最後の舞台となるのは上高地だった。
登山と飲ん兵衛のエピソードで楽しく読ませ、読後感の良い山岳ミステリだと思う。
満足度 3.gif



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『怨念連山』  樋口明雄『還らざる聖域』  佐々木護『雪に撃つ』
  

風山子『奥多摩迷走事件 深淵からの呼び声』  『丹沢山塊 白霧の迷い人』
   


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posted by ももた at 09:03| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月21日

ながい旅

大岡昇平 著
装画 相原求一朗

<内容>
元陸軍中将岡田資の法廷闘争とその経過を、資料や証言を基に書き記したもの。

元陸軍中将岡田資(明治23年4月14日〜昭和24年9月17日)は、第13方面軍または東海軍管区司令官として、降下B29搭乗員38名の処刑の責任を問われた。
日蓮宗信者の岡田は、裁判を「法戦」と称して闘い、アメリカ空軍が国際法に違反して軍事目標ではない都市爆撃を行い、無差別に多くの非戦闘員を殺傷したことを立証するも、昭和23年5月、B級戦犯として、横浜の連合軍軍事裁判所で絞首刑の判決を受けた。翌24年9月17日、巣鴨プリズンにて絞首刑執行。

<感想>
元陸軍中将岡田資氏のことは、元陸軍主計大尉冬至堅太郎著『ある「BC級戦犯」の手記』を読んで知った。部下の命を救うため全責任を負って絞首刑になったことは立派だと思い、もっと知りたくなって本書を手にした。この話は映画化もされている。
戦争である以上無差別爆撃も仕方ないと思っていたが、国際戦争法規とか軍律など、自分の無知を思い知らされた。
日本国が敗戦に打ちひしがれアメリカの顔色を窺うしかなかった時、臆することなく勇敢に自論を主張し、アメリカ軍の無差別爆撃を立証、正々堂々と闘い抜いた日本人がいたことを詳しく知ることができ、良かったと思う。
満足度 5.gif



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『明日への遺言』 冬至堅太郎『ある「BC級戦犯」の手記』
   
城山三郎『落日燃ゆ』 角田房子『一死、大罪を謝す』 上坂冬子『巣鴨プリズン13号鉄扉』
  


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posted by ももた at 09:28| 東京 ☁| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。