2021年06月30日

いつかぼくが帰る場所

ピーター・ヘラー 著
堀川志野舞 訳 「The Dog Stars」

<あらすじ>
謎の疫病により、人類の大半が死に絶え、動物や魚も姿を消し、世界が一変した。
妻や友人知人の全てを失ったヒッグは、ブルーヒーラーの雑種である老犬ジャスパーとガンマニアの隣人バングリーと共に、地方空港を拠点にして生き延びていた。
生存者の殆んどは善い人間ではなく、最初の頃はたいてい夜に襲撃者がやって来た。だからヒッグは、セスナ機で安全地帯の偵察飛行を欠かさない。ヒッグとバングリーがこの状況に置かれて9年になる。
しかしヒッグは、3年前に無線から聞こえてきた年配のパイロットの声が忘れられない。自分たちが暮らす狭い安全地帯の外に出るのは危険だが、他にも安全な場所があるかもしれないと思っていた。
そんな中、ジャスパーが老衰で死んだ。そして襲撃者たちから、アラブ人グループがここに向かっているという情報を手に入れる。
そこでヒッグは、通信があったと思われる場所に向けて、セスナ機で境界線の外の世界へ飛び立つが・・・

<感想>
舞台は疫病とパンデミック、温暖化で無法地帯となったアメリカ。主人公は、家を建てるのを仕事にしていた40歳の男性。ソーラーシステムと風力タービンで電力を賄い、周辺の空き家から物資を調達して、音楽を聴くこともできるし、ゲームもできる。食糧確保と襲撃者が大問題だけど、気が合わない男同士でも、生き延びるために協力し合う。
弱肉強食の無慈悲な世界を描いており、興味深い話だけど雰囲気が少し暗いかな。ペットロスも哀しいな。単純なサバイバルを期待していたが、そうではなかった。
しかし終盤は、派手な銃撃戦と意外な結末が待っている。面白い長編小説だと思う。
満足度 3.gif



人気ブログランキング
C・J・ボックス『越境者』  アルネ・ダール『狩られる者たち』
   

ジェームズ・ロリンズ『タルタロスの目覚め』
   


人気ブログランキング
posted by ももた at 08:41| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月29日

僕が死んだあの森

ピエール・ルメートル 著
橘明美 訳 「TROIS JOURS ET UNE VIE」

<あらすじ>
1999年12月末、成績優秀な12歳の少年アントワーヌは、隣家の6歳の男の子レミ・デスメットを枝で殴って殺してしまう。殺意などなく、一緒に遊んでいた犬がレミの父に銃殺されて、激怒のあまり弾みで起きたことだった。
レミの死体を倒壊した巨木の下の穴に隠して家に戻ると、小さな村はレミの行方が分からず大騒ぎになっていた。アントワーヌは、腕時計を失くしたことに気付くが、現場に引き返せない。
警察が出動し、捜索が始まり、県の誘拐警報が発令された。地元テレビ局もやって来て、小さな村は大混乱に陥る。警察に目撃情報を求められたアントワーヌは、作り話を繰り返し語るうちにそれが真実だと思い始めた。
噂が村を駆け巡り、村人数人が容疑者として挙がり、逮捕者まで出る。アントワーヌは罪が露見する恐怖に怯え、事の重大さに打ちのめされる。
アントワーヌの人生は、たった数秒で狂ってしまった・・・

<感想>
事件の背景と事件後の騒動、村全体を襲った暴風雨災害の様子、母親思いの息子アントワーヌの心理状態などを軽快な筆致で描き、少しの皮肉とユーモアが相俟って面白く読ませる。
そして、著者が最期に仕掛けた爆弾は思いがけないものだった。とても面白いサスペンス小説だと思う。
満足度 4.gif



人気ブログランキング
『われらが痛みの鏡』
   

カリン・スローター『スクリーム』  カミラ・レックバリ『黄金の檻』
   


人気ブログランキング
posted by ももた at 09:22| 東京 ☔| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月28日

太平洋戦争秘史 戦士たちの遺言

大正生まれの若者たちが令和に生きる若者たちに遺した言葉
神立尚紀 著

<内容>
「はじめに」
「第1章 真珠湾攻撃に参加した隊員たちがこっそり明かした「本音」」
「第2章 ミッドウェーで大敗した海軍指揮官がついた「大嘘」」
「第3章 「皆、泣きながら戦っていた」戦死率が特攻を上回るソロモンの航空戦」
「第4章 ヒトラーの要望で日仏を往復した潜水艦乗組員を待ち受けた苛酷な運命」
「第5章 たった2日で3000人以上が戦死したマリアナ沖海戦の悲劇」
「第6章 生存者が語る日本軍捕虜1100人「決死の蜂起」その壮絶な記憶」
「第7章 「海軍の墜落王」は、レイテ島激戦の最中「自分不在の結婚式」を挙げた」
「第8章 「戦艦大和」特攻を「思い付きの作戦」と痛烈批判した副砲長の無念」
「第9章 知られざる「終戦後」の空戦 8月15日に戦争は終わっていなかった」
「第10章 秘密裏に36年間も遂行されていた「皇統護持作戦」とは?」
「第11章 日本人なら知っておくべき「特攻の真実」」
「大東亜戦争(太平洋戦争)年表」

<感想>
時系列順になっているので太平洋戦争(海軍)の流れを掴み易く、勉強になった。
そして戦闘機の壮絶な空戦の模様や、「被弾して帰れなくなったら、敵を見つけて自爆する」「爆撃機を守るために自らを楯にする」「負け戦を見通して、尚且つベストを尽くして戦う」など、当時者の証言は、その心情と潔さを思うと、胸に迫って来るものがある。
また、「豪州カウラ捕虜収容所の日本軍暴動」や「終戦の日(8月15日)当日やその後の日本本土上空の空戦」と「皇統護持作戦」(第343海軍航空隊司令・源田實大佐と、飛行長・志賀淑雄少佐)は興味深く、考えさせられた。
日本国民の殆んどが戦争を知らない世代となった今日、一読の価値がある本だと思う。
満足度 5.gif



人気ブログランキング
高木晃治『源田の剣 第三四三海軍航空隊 米軍が見た「紫電改」戦闘機隊』


『証言 零戦 生存率二割の戦場を生き抜いた男たち』 森史朗『零戦 7人のサムライ』
   


人気ブログランキング
posted by ももた at 09:11| 東京 ☀| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。