2021年05月11日

竹林はるか遠く

日本人少女ヨーコの戦争体験記
ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ 著&監訳
都竹恵子 訳 「SO FAR FROM THE BAMBOO GROVE」

<内容>
1945年7月29日、朝鮮北部の羅南。当時11歳の川嶋擁子(ようこ)は、真夜中に「ソ連軍がやって来る」と叩き起こされた。満州鉄道で働いている父と動員で弾薬工場にいる兄の淑世(ひでよ・18歳)に置手紙を残し、母と姉の好(こう・16歳)と共に持てるだけの荷物を背負い、村外れの竹林の中に建っている我が家から脱出した。
徒歩で羅南駅へ行き、赤十字列車(傷病兵輸送列車)の女性専用貨車に乗り込み、兄と集合予定の京城駅を目指す。病人の世話をするのは、兄と同じ年頃の衛生兵と看護婦だった。
しばらくして共産軍の兵隊が川嶋一家を捕えようと捜していると判り、母娘は列車から飛び降りた。こうして母娘だけの決死の朝鮮半島逃避行が始まった。
一方、羅南の弾薬工場にいた兄の淑世も共産軍の襲撃に遭うが、級友3人と共に窮地を生き延び、兵士たちに荒らされた家に戻った。
そこら中に死体が散乱するなか、級友3人と共に歩き続け、9月の終わりに港町の元山に辿り着く。淑世はここで仲間たちと別れ、ひとりで京城へ向かうが・・・

<感想>
朝鮮半島引き揚げ体験記である。タイトルの「竹林」とは生まれ育った家、つまり故郷のこと。行くことのできなかった青森の母の実家への思いも込められているそうだ。
祖国日本への生還を目指す引揚者の過酷な体験と、戦後の労苦を少女の目線で描いており、とても読み易く、生きるか死ぬかの戦いをした10代の青年と少女の逞しさに感動した。
容赦ない襲撃や暴行も掻い潜り、死体の軍服を剥ぎ取って着る、死体の後始末の仕事、残飯で飢えを凌ぐ、駅のベンチで寝る、文房具は同級生が捨てた物、母の死と貧困と苛め等々、胸が痛くなる自伝的小説だが、だからこそこのサバイバルストーリーを後世に残したい。
やったもの勝ちの嫌な世の中になって来たこのコロナ禍に於いて、勇気を貰えるだろう。一読の価値がある本だと思う。
満足度 5.gif



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posted by ももた at 09:11| 東京 ☀| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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