2021年05月10日

ロンドン謎解き結婚相談所

ロンドン謎解き結婚相談所・シリーズ @
アリスン・モントクレア 著
山田久美子 訳 「THE RIGHT SORT OF MAN」
カバーイラスト 亀井英里

<あらすじ>
1946年ロンドン。戦争で心に深傷を負ったアイリス・スパークスとグウェン・ベインブリッジは、メイフェアの奇跡的に戦禍を免れた建物の一室で、ライト・ソート結婚相談所を開業した。
3カ月後、入会したてのドレスショップの店員ティリー・ラ・サルに、労働者階級出身の誠実な青年会計士ディッキー・トロワーを紹介した。
ところが1週間後、ティリーがナイフで刺殺された。結婚相談所は警察の訪問を受け、ディッキーが逮捕された。善人のグウェンは彼の潔白を確信していた。そしてティリーは、偽造の衣料切符を使って逮捕された前科があった。
スキャンダルで事業が財政的窮地に立たされたアイリスとグウェンは、探偵業に乗り出すが・・・

<感想>
主人公はアラサーの女性ふたりで、戦時中に特殊作戦の訓練を受けて情報部の仕事をしていたアイリスと、上流階級出身で貴族と結婚したものの戦争未亡人となり、6歳の息子ロニーと義理の両親の屋敷に居候している心優しいグウェン。ふたりとも観察眼が鋭くて、グウェンは人を見る目もあり、アイリスには軍と警察にコネ(アンドルー・サットン少佐の愛人で、ロンドン警視庁の刑事マイク・キンジーは元婚約者。)がある。そんなふたりがコンビを組んだら最強だった。
終戦直後の社会事情やアイリスとグウェンの個人的な問題、予想外の真相などが相俟って、とても面白いコージーミステリだと思う。
王室からの依頼でエリザベス王女の恋のお相手、フィリップ王子の身辺調査をすると言う第2作『A Royal Affair』(2020)が楽しみでならない。
満足度 5.gif



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ジョバンニ・デ・マウリツィオ『P分署捜査班 誘拐』  カルメン・モラ『花嫁殺し』
   


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posted by ももた at 08:52| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月07日

ヴィンテージガール

仕立屋探偵桐ケ谷京介シリーズ @
川瀬七緒 著

<あらすじ>
美術解剖学を専攻し、凄腕の仕立て職人でもある服飾ブローカーの桐ヶ谷京介は、人を見れば骨と筋肉が透けて見える特技を持ち、服を見ればその人の受けた暴力や病気が分かった。2年前から、東京の高円寺南商店街で小さな仕立屋を営んでいる。
ある日偶然テレビの公開捜査番組を目にし、10年前に起きた身元不明の少女殺害事件の遺留品である奇抜な柄のワンピースに、京介は違和感を覚える。ワンピースは既製品ではなく、腕の立つ職人によって仕立てられていた。いくら10年前とはいえ、色柄デザインが時代遅れ過ぎるのだ。海外を4年も放浪して服飾の深層部を探求してきた京介は、この生地を調べれば少女の身元が判ると確信する。
翌日、同じ商店街にあるヴィンテージショップを訪ね、店を切り盛りする水森小春に公開捜査の動画を見せる。すると被害者少女のワンピースは、アメリカでしか流行らなかったアトミック柄だった。
京介は警察へ情報提供するも全く相手にされない。そこで事件に興味が湧いてきた小春と共に独自調査に乗り出すが・・・

<感想>
涙もろい京介とゲームオタクの小春が、アトミック柄の生地とベークライトの釦を手掛かりに、事件の真相を暴いていく。
著者お得意のユニークな奇人変人、つまりある分野に特化した人物を多彩に配置しており、その専門分野の造詣と魅力的なキャラクター造形、職人魂とその業界、貧困とか無国籍児などの社会問題が相俟って、期待を裏切ることなく最後まで楽しく読ませる。とても面白いミステリだと思う。
法医昆虫学捜査官シリーズが行き詰って来た感もあるので、新シリーズ開幕なのかな。だとしたら嬉しいな。
満足度 5.gif



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川瀬七緒『革命テーラー』  ヘニング・マンケル『手/ヴァランダーの世界』
   


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posted by ももた at 08:45| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月06日

黙秘犯

翔田寛 著

<あらすじ>
千葉県船橋市内の大学生で水産会社社長の息子・西岡卓也が撲殺された。
警察は目撃証言と凶器に残された指紋から、2年前に市川市内で起きた傷害事件で保護観察付執行猶予者となった倉田忠彦を重要参考人として取り調べる。
ところが、倉田は完全黙秘を貫き、動機が判らない。
勝浦生れの倉田は、小学生の頃に両親を交通事故で亡くし、妹と共に親戚に引き取られた。館山市の民宿・夕凪館の住み込み板前をしている。生真面目で物堅い人柄と評判だった。
捜査を進めると、夕凪館の息子で、西岡卓也の高校時代の同級生でもある友部雄二が、不審な溺死を遂げていた。
そして船橋市と館山市で起きた2人組の男による連続婦女暴行事件が浮上する。
更に2年前の傷害事件も、釈然としない点が出て来る。
単純な撲殺事件が不審死、傷害事件と連続婦女暴行事件まで絡み、複雑な様相を見せ始める・・・

<感想>
地縁や血縁が濃い地方都市を舞台に、警察の地道な捜査を丁寧に描き、容疑者・倉田忠彦の周辺で発生した一連の事件の真相と、倉田忠彦が背負っているものが明らかになって行く。
地元の名士とか有力者、代議士と官僚など、特権階級への忖度とその権力の利用が表面化して問題視されている今日、興味深い警察ミステリだと思う。
しかし、何の捻りも無いから面白味も無い。苛めと家庭内暴力、特権階級意識と人間のエゴなどが絡み、ありふれた話に思える。
それでも、生まれながらに有り余るほどの豊かさを与えられながら他人を踏みにじり、世間を徹底的になめきって暮らしている者に対して、警察が権力に忖度しないでしっかり捜査するのは痛快だった。
満足度 3.gif



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posted by ももた at 08:59| 東京 ☁| Comment(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。