2021年05月21日

何があってもおかしくない

エリザベス・ストラウト 著
小川高義 訳 「ANYTHING IS POSSIBLE」
装画 船津真琴

<内容>
家族や人と人との出会いに宿る苦しみと希望を描く9篇「標識」「風車」「ひび割れ」「親指の衝撃論」「ミシシッピ・メアリ」「妹」「ドティーの宿屋」「雪で見えない」「贈りもの」を収録した連作短篇集。

<感想>
16歳のときに家を出た女優が実家の真実に直面する「雪で見えない」は、O・ヘンリー賞受賞作。
アメリカ中西部にある寂れた小さな田舎町を出た者と、ずっとそこで暮らしている者を描いており、全編を通して、都会に出て有名作家になったルーシー・バートンの名前が出てくる。『私の名前はルーシー・バートン』を先に読むと、本書がより一層楽しめるかもしれない。
生憎未読だけど人と人の繋がりとか人生の奥深さを感じ、味わい深い連作短篇集だと思う。
酪農場の火事で全財産を失った男の「標識」と、高校生の進路指導をしている女性の「風車」が良かったな。
満足度 4.gif



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『私の名前はルーシー・バートン』『オリーヴ・キタリッジ、ふたたび』『バージェス家の出来事』
   


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posted by ももた at 09:07| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月18日

続・竹林はるか遠く

兄と姉とヨーコの戦後物語
ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ 著&監訳
都竹恵子 訳 「My Brother,MySister,and I」

<あらすじ>
1945年11月19日に母が亡くなって約2年、川嶋擁子は13歳と6カ月になっていた。
1946年の春に帰還した兄は人夫仕事、姉は女子専門学校の生徒、擁子は苛められるので大嫌いだった女学校へ通っていた。兄妹は、京都市内にある下駄工場の倉庫の2階の4畳半の部屋に住み、苦しい生活をしていても互いに助け合い励まし合って生きていた。
ところが、工場が火事で全焼し、大事な物を仕舞ってあった風呂敷包みを取りに戻った姉が重傷を負う。焼け出された兄妹は姉の病室で寝泊まりし、兄は人夫仕事と警備員の仕事を掛け持ちしながら入院費を支払う。擁子も、乞食とか浮浪児と蔑まれながらも兄と姉の役に立とうとする。そうした中、次々と難題が降りかかる・・・

<感想>
21歳の兄が家長で、厳格な姉が母親代わり。兄妹は生死不明の父の言葉を胸に、助け合い励まし合いながら殺伐とした戦後の混乱を生き抜いた。その強靭なメンタルに脱帽する。
そして、6年間ものシベリア抑留から戻った父を出迎えたとき、兄妹は深々とお辞儀をして「こんなことになって本当に残念です。お悔み申し上げます。」と母の死を告げている。シベリア抑留についての話はない。
人生訓が散りばめられており、前作『竹林はるか遠く』よりも自伝的小説の色合いが濃い作品だと思う。
満足度 3.gif



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城内康伸/藤川大樹『朝鮮半島で迎えた敗戦 残留邦人がたどった苦難の軌跡』


藤原てい『流れる星は生きている』『旅路』 石村博子『たった独りの引き揚げ隊』
  


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posted by ももた at 08:59| 東京 ☁| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月17日

初夏の訪問者

紅雲町珈琲屋こよみ
吉永南央 著
装画 杉田比呂美

<あらすじ>
独り暮らしの老婆・杉浦草は、北関東の地方都市でコーヒー豆と和食器の専門店「小蔵屋」を営んでいる。
ある日、米沢市の婚家に残し、3歳で水の事故で死んだ息子・良一の名を騙る男が訪ねて来た。草は良一の葬儀に参列することも叶わず、息子のブリキの電車を杉浦家の墓に納めていた。男は婚家で働いていた丹野キクの息子・学として育っていた。呆れた嘘話だと思うものの、男の目的が分からない。
そのうち証拠を見せられ、草はあれこれと思い悩むが・・・

<感想>
杉田比呂美氏の表紙絵に惹かれた。そして老婆が主人公なので、読み始めて直ぐにゆったりとした時の流れを感じる。和食器の蘊蓄も興味深い。
他人を気遣う人や道理が隅に追いやられ、特権とかやった者勝ちの嫌な世の中になって来たと思う今日この頃、良識があって誠実に生きている人たちのエピソードが心に沁みる。
「日本のテレビは肝心なことは報道しない」「政府は堂々と嘘を吐くし、新聞は政府の言いなりになってその嘘を垂れ流す。そんな勝手をさせないために投票へ行く」など、戦争を経験した世代の言葉は的を得ているな。過去はどうあれ、草のようなお年寄りになりたいと思った。癒されたいときにぴったりな作品だと思う。
満足度 4.gif



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『通い猫アルフィーの奇跡』   『ブート・バザールの少年探偵』
  


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posted by ももた at 08:52| 東京 ☁| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
読んだ本の紹介と感想、評価を書きました。